獅子抱く天使

   1 獅子天使を抱く時 −5−

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「えへへっ。」

馨は携帯を見つめてニヘラっと笑っていた。

そこには、愛しの上村の待受。

口元だけ微笑んで、ワイングラスを持っているのが妙に似合っている。

「上村さん、おはよう。」

馨はそう言いながら、待受けの上村にキスを落とした。

「カオ朝ごはんだよ〜〜。」という声が聞こえる。

「はーーい。」馨はその声に答えながら立ちあがった。



「会長、ご機嫌ですね。」

佐々木はコーヒーを上村の机に置いて言った。

上村の表情はそう変わらないがどこか嬉しそうなのが

長年共にいる佐々木にはわかった。



「あそこまで物怖じしないのも一種の特技としかいいようがないな。」

「幹部があの会社に通うのも何ですよね。」

すっかり馨と仲良くなった幹部がちょくちょく不動産会社に行ってしまうので

佐々木も少々困っているのだ。

「事務所の方でバイトさせるか・・・。」

「その方が良いですね。早速手続き致します。」




放課後、校門を出た所で馨は佐々木の姿を見つけた。

「佐々木さん。」

馨は嬉しそうに小走りに佐々木の近くまで行った。

「馨さん。お疲れ様です。お迎えに参りました。」

佐々木はそう言ってとまっている黒いリムジンへ馨を

連れて行く。

「あれ・・佐々木さんここ?」

馨は車が止まったのがアルバイトの不動産会社ではなく

この前連れていってもらった事務所だということに驚いた。



佐々木について事務所の奥に案内されると

上村の他に先日紹介された幹部の菅生がいた。

「上村さん、菅生さんこんにちは。」

「馨。俺の横に座れ。」

馨は言われたとおり上村の隣にちょこんと座った。

「馨、今日からここでバイトしろ。俺が小遣いやるのは厭だろ。」

「えっ。」急な展開に馨は驚いた。

「ああ。バイトと言ってもここにいる菅生の手伝いをしてくれ。

 こいつは、株の売買を主にやっているから、教えてもらうと良い。」

「はい。よろしくお願いします。」

馨は菅生に深々と頭を下げた。



「馨さん、それでも学生の本業は勉強ですよね。

 そう言えば、今日はテストの結果来たのではないですか?」

「えっ。何で佐々木さん知ってるの?」

「で、どうだった?馨。」

上村もそう言う。



「えーーーっ。これでも成績良いんだよ。僕・・・。」

馨は鞄から成績表を出して上村に見せた。

「ほう・・。」

「すごい。」

「なかなか・・。」

小さな成績表を3人が見つめた。



「でも家では、これでも成績が悪いほうなの。」

真っ赤になって馨はその成績表をさっと鞄にしまった。

「ちょっと待て。これで成績悪いのか?学年で3番じゃないか?」

「だって兄さん達はずっと1番だし・・・。」

「馨は馨でいいんだよ。頑張ったな。」

そう言って上村は馨の頭を撫でてくれた。



その言葉が馨にはとても嬉しかった。

馨の兄達は、とにかく優秀で頭も良い。

それぞれ特技もあり、兄弟の中で一番平凡だと思えるのが

自分なのである。

兄弟はそれを責めることも無いし、親もそうなのだが

やっぱりちょっぴり劣等感を持っている。



「えへへっ。上村さん僕をあんまり甘やかせちゃだめだよ。」

「馨を甘やかさないで誰を甘やかせばいいんだ?」

上村はそう言いながら馨の頭をくしゃくしゃ撫でた。



そんな2人を佐々木と菅生が嬉しそうに見つめていた。

いつも殺伐とした世界を生きている男達にとって

馨は天使のようにきらきらしていると思った。

それから馨は菅生に2人の若い組員を紹介された。

林と金沢という組員でちょっと見は普通の大学生に見えるが

腕はたつようだ。

朝は兄弟と学校まで車で送られるのを知った上村は

それ以外はこの2人を馨につけると言った。

「本当は、すぐにでも一緒に住んで囲っちまいたいんだけどな。」

そういう上村の言葉に馨は真っ赤になった。

真っ赤になった馨はとても可愛くて林と金沢の顔もほのかに赤くなり

上村にぎりっと睨まれて背筋が寒くなった。



 
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