獅子抱く天使

   1 獅子天使を抱く時 −4−

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「わあ、素敵な所だ。」

馨は、珍しそうに個室を見渡す。

佐々木は、お箸で食べれるフレンチのお店の個室を用意してくれた。



いつもと違い佐々木も部屋に入ってくる。

馨は不思議そうに2人を見つめた。

「今日は、馨に大切な話がある。」

上村がそう切り出したので馨はきちんと座りなおした。

「この前、俺の物になれ。と言ったよな?」

「うん。だから、今日晃父さんにも話したんだ。」

馨は素直に答えた。



「俺は、お前に本気で惚れてる。一生手放す気はない。

 しかし、俺の物になると言うことは俺についても説明しなきゃ

 いけないと思ってな。」

「説明?だから佐々木さんがいるの?」

「ああ。俺の話を聞いた時点でお前の決意を聞きたい。

 馨。俺には不動産会社の社長の他にも顔がある。」



「何か別に事業やってるの?それなら、父さん達もやってるよ。」

馨はきょとんとして言った。



「馨・・俺は俗に言うやくざだ。」

馨は驚いたように目を丸くした。

「や・・くざって・・・上村さんも佐々木さんもこんなに優しそうなのに?」



佐々木は頭を抱えたくなった。

上村のことを優しそうと言うものはかつていなかったからだ。



「ええ。会長は龍翔会二次団体『南光会』会長なのですよ。」

「ふーーん。そうなんだ。ありがとう教えてくれて。」

にっこり微笑む馨に上村と佐々木が驚いた顔をする。

「馨・・・その・・・ずいぶんあっさりした態度だな・・・。」

「えっ。だって上村さんの職業なんて関係ないよ。」

「あの・・つまり・・会長のせいで馨さんが狙われることもあるわけですよ。」

佐々木が言う。

「大丈夫だよ。護身術習っているし・・名医も知ってるから。」



上村は笑って言った。

「さすが、俺が惚れるだけあるな。馨。俺の物になれ。」

「うん。なる。えっとふつつかものですが、よろしく。」

「負けました・・あなたには・・・。」佐々木がそう呟いた。




「それで・・・。今日会ったのはお前の父親だよな。」

名刺には、真崎コーポレーション社長秘書となっていたことを

思い出して言った。

「うん。晃父さんは、僕の本当の父親。」

「じゃあ、真崎栞社長は?」佐々木が聞くと無邪気な顔で馨が言った。

「栞父さんは、戸籍の父親。両方とも僕のお父さん。

 だって、父さん達ゲイだもの。」

「はあ?」

さすがに上村と佐々木はかたまった。

「馨さん・・順序だてて話してください。」

佐々木が言う。



「うーーーんと・・・

 元々、栞父さんと晃父さんはつきあっていて、

 それで母さんとは友達だったんだ。

 でも、栞父さんは会社持っているし

 やっぱり後継者ほしいと思っていたんだよね。

 そこで、栞父さんは精子を提供して人工授精して

 聖兄さんと尊兄さんが出来て、それに気を良くした栞父さんが

 勝手に晃父さんの精子を提供して僕ができたわけ。

 迷惑が掛かるから母さんの名は伏せることにしたんだって。」

確かに真崎コーポレーションは大きな会社だから

そういうスキャンダルは伏せるべきなのだろうと上村は思った。



「複雑だと思っているんでしょう?

 でも、僕は皆に愛されているんだ。

 だって、父さん達も母さんも兄さん達もみんな

 僕のこと愛してくれるって言ってくれるんだ。」

馨はにこにこ笑って言った。

上村は、そんな馨を愛しそうに見つめ頭を撫でてくれた。



夕食後、上村は事務所に馨を連れて行き、幹部達に紹介した。

普通ならその雰囲気に怯えるのだが馨は始終微笑んでいた。

その大物ぶりに幹部は驚き上村は満足げに口元だけ微笑を浮かべた。


 
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