獅子抱く天使

   1 獅子天使を抱く時 −3−

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「会長・・ご機嫌ですね。」

「そうか・・。」言葉少なく上村はパソコンに向かっている。

馨にキスしてから数週間がたった。

だからと言って2人のつきあいが深くなるわけでもなく

仕事の帰りに夕食を食べてマンションまで送るという

デートを重ねていた。

別れる時伸びあがってキスをしてくる馨がとても愛おしい。

「言わなくてはいけないな・・・。」

上村は煙草をくわえながらそう呟いた。



「社長。実は、真崎馨は謎なところが多いです。」

「謎?」

「ええ。調べさせたのですが・・・。」

佐々木は書類を出してきた。

「真崎馨。父親は真崎栞。兄弟3人あり。」

「母親は、何をしている?」

「母親は不明です。どんなに調べてもでてこないです。

 それに・・・。」

佐々木は、兄弟の欄を指差していった。

「一番上の兄は真崎晃・・・これはどう考えても

 馨の親と思われます。」

その横に家族の写真を置いた。

「ふっ。確かに似ているな・・・。

 今夜旨いものでも食わせてその時に話を聞いてみるか。」

 佐々木も一緒に。」

上村はそう言いながら携帯を開いた。





馨は、学校の帰りに喫茶店に寄った。

姿を見て優しく微笑む男はどこか面影が馨に似ている。

「晃父さん、待った?」

「そんなことないよ。馨、元気に学校行っているかい?」

「うん。」

馨を見る晃の顔はとても優しい。

「あのね。父さん。僕・・父さんに聞いて欲しいことがあるんだ。」

「なんだい?」晃の視線はとても優しい。

「僕、好きな人が出来たんだ。」

「好きな人?そうかい。馨も好きな人ができたんだ。

 どんな人かい?」

晃は嬉しそうに言った。

「あのね。他の家族には黙って欲しいんだけど・・・。」

「ああ。わかってるよ。」

「今、学校終わってからアルバイトに行ってるんだ。」

「どうして?小遣いが足りないのかな?」

「ううん。僕ね。

 兄さんたちみたいに個性や才能があるわけでもないから

 自分でできることを探したいと思ったんだ。

 それに、僕自身で働いたお金で父さん達と母さんに

 プレゼントを贈りたくて・・。」

「馨・・・。」恥ずかしそうに微笑む馨を晃は眩しそうな顔で見た。



「今、行っているのは父さんの会社よりはずっと小さな会社だけど

 僕は、そこでいろいろなことを覚えようと思ったんだ。

 それで、そこにはバリバリのやり手の社長で上村さんがいて・・・。」

「その人を好きになったんだね。ちなみに・・男?」

晃は、微笑みながら言った。

馨は真っ赤な顔をして頷いた。


「馨もそんな年齢なんだね。ありがとう。話してくれて。」

晃は穏やかに言った。

「うん。栞父さんにはまだ言えないけれど晃父さんには

 ちゃんと言いたくて。」

「まあ、馨を激愛している栞には言えないよね。」

その時、馨の携帯が鳴った。晃に断って電話に出ると

上村で迎えに行くから夕食を一緒にどうかと誘うものだった。

馨は晃に行っても良いか聞いてから行くと返事をした。

すぐに迎えに来ると聞いて晃は馨と一緒に立ちあがって言った。


「その方にご挨拶だけしても良いかな?」

馨がコクリと頷くと晃は伝票を持って会計をして外に出た。



少しするとシルバーのベンツが止まり、中から上村が降りてきた。

不思議そうな顔をして馨と晃をみつめる。

「こんにちは。私は馨の父の真崎晃と申します。」

晃は物腰やわらかく言い、名刺を出した。

「突然のことで申し訳ない。私は上村大樹と申します。」

上村も不動産会社社長の名刺を出して言った。

「あのね。今父さんに上村さんのこと好きだって言ってたの。」

馨が照れながら言うと上村も驚いた顔で馨を見つめた。



晃は、微笑みながら馨に言った。

「馨。家の事情上村さんに話したかい?」

「ううん。話していいの?」

晃は黙って頷いて上村に言った。

「この子がお世話になっております。

 この子はとてもまっすぐな子なので

 泣かせないで下さいね。」

「わかりました。私も真剣です。」

上村のまっすぐな言葉は馨にとってすごく嬉しかった。



晃はにっこり微笑んで言った。

「それでは、私は仕事に戻ります。

 馨、門限は守ること。高校生なのだから責任は持つんだよ。」

晃は、上村にお辞儀をするとそのまま歩いて行った。

上村は晃の様子に驚いた。

いくら気配を消していても上村からは危険な香りがする。

普通なら自分の子供に近寄るなというはずなのだが

あの男は微笑んだだけだった。

「行こうか?」

上村は馨の肩を抱いて車に乗せた。


 
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