獅子抱く天使

   1 獅子天使を抱く時 −2−

本文へジャンプ




数日後、上村は佐々木に馨の様子を聞いた。

「その、私もかなり戸惑っておりますが

 真崎は、すごく使えます。」

佐々木は言いにくそうに言った。

「使えるってどういうことだ?」上村は驚いたように言った。

「主にデータ整理の仕事をやらせたのですが・・・

 ほらアルバイトですし、でもその処理能力が異常なんですよ。」

「異常とは?」

「コンピュータのスキルが異常にあるからか、とても早いんですよ。

 前の社員などはそれだけで残業していましたよね。

 真崎が来てから残業無しです。

 今から仕込むと楽しみな人間になりますよ。」

佐々木が人を褒めることはあまりない。

それは、佐々木自身が有能な人間だからである。



「面白そうだな。夕方そちらに行けるよう調整してくれ。」

上村は、にやりと笑って言った。



「馨君、お菓子いらない?」

「あっ。僕の好きなどら焼きだあ。」

馨はへにゃっと笑いながらデータを入力している。

会社の女の子も馨のことを弟のように可愛がっている。

佐々木をはじめとする男の社員も馨のことを可愛がって

仕事も優しく教えてくれる。

もらったどらやきを頬張りながらひたすら手を動かしている。

基本的に馨は、集中すると周りが見えなくなるタイプだ。



上村と佐々木が事務所に入るとその雰囲気のせいで

事務所がシーンとする。

どうやら、馨は集中して入力をしているらしくて

2人に気がつかない様子だ。

上村は面白そうな笑みを浮かべると馨の方に歩いていった。

「どうだ。調子は?」

馨は、ふっと上村をみあげて微笑んだ。

「こんにちは。食べますか?食べかけだけど・・・。」

そう言いながら置いていた半分のどら焼きを差し出す。

上村は驚いたようにどら焼きをみつめると苦笑して言った。

「気持ちだけ貰う。甘いものは苦手でな。」

すると馨は驚いたように言った。

「えーーー。甘いもの嫌いなんですか?それって人生の1/6は損していますよ。」

こらえ切れなくなって上村はクツクツと笑った。



周りは普段笑わない上村が笑っているのを見て信じられないような顔をした。

「よしっ。仕事終わったら夕食に連れてってやる。」

上村は笑いながらそう言うときょとんとしている馨の頭を撫でると

奥の部屋に入って行った。

「馨君ってすごいねえ。」社員のその声に馨は首をかしげて入力の続きをはじめた。



数時間後、馨は上村と和食の店で向かい合っていた。

佐々木が和食好きだという馨の好みを聞いて予約してくれたのだ。

「外で、外食うれしい。」

馨はそう言いながら嬉しそうにお刺身を食べている。

そう言いながらも、日本酒を飲む上村にもちょうど良い加減で酌をする。

「遠慮しないで、食え。何なら追加注文しても良いぞ。」

「えーーーっ。そんなに入らないです。」

馨はそう言いながらも箸を動かしていた。

「でも、上村さんってかっこいいよね。栞父さんよりかっこいい。」

「はあ?お前の基準は父親なのか?」

確かにマスコミによく登場する馨の父、真崎栞は良い男だ。

「うん。でも、父さんよりも野性味があって上村さんの方がかっこいい。」

「褒めたって何も出ないぞ。」

「えーーーっ。お世辞じゃないもん。

 上村さんってすごくカッコいいよ。」

「じゃあ、俺がキスしても文句言わないな。」

上村はそう言うと馨の顔を強引に自分の方に向け唇をつける。

「う・・・・ん・・う・・え・・・む・・らさん」

馨は驚いたように目を見開いた。



「俺を煽った罰だ。馨。俺の物になれ。」

上村はそういうと再び馨にキスをした。



 
 BACK NEXT 

 Copyright(c) 2007-2010 Jua Kagami all rights reserved.