獅子抱く天使

   1 獅子天使を抱く時 −1−

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上村大樹は、いつものように秘書の佐々木から

今日の予定を聞いていた。

何事もない1日がはじまるように思えた。


「社長、私は午後から不動産会社のアルバイトの面接があるので

 ご一緒できません。これが、応募書類です。」

上村はその応募書類をパラパラと見始めた。

普通は、社長が目を通す書類では無いのかもしれない。

しかし、上村は自分の関連会社の応募書類には全て目を通すことにしている。



「うん?この応募書類は?」

上村は驚いたように1枚の応募書類で手をとめた。

「はい。私も驚いたのですが・・・。」

上村はしばらくその応募書類を見てニヤリと笑った。

「佐々木。午後の予定を空けておけ。面接に加わる。」

「はい。かしこまりました。」

有能な佐々木はすぐに部屋を出てスケジュール調整をはじめた。




「馨君、帰り僕の家に寄らないか?」

「ごめんね。文宏君。今日は予定があるから。」

真崎馨は申し訳なさそうに手をあわせた。

「まあ、仕方ないね。じゃあ、また明日ね。」

文宏は鞄を持って軽く手をあげた。

馨も手を振る。



「う・・・ん。ちょっと緊張するけれど頑張ろう!」

馨は独り言を言って鞄を持った。

真崎馨 名門私立蒼明学園 高等部1年生になったばかりだ。

背は152センチになったばかりで体型も華奢。

そこらへんの女の子よりも愛らしい。

ハーフの母親の影響を受けたのか肌は白く

可愛らしい。親や兄弟の愛情をいっぱいに受けているので

天真爛漫な性格をしている。

そして、嬉しいことが最近あった。

それは、高校に入ったから門限が9時になったこと。

だから、馨は決めていたことがあった。

トイレに寄って鏡ににっこりと笑いかける。

「大丈夫だよね。」

馨はそう呟くと鞄を持って出て行った。






・・・会長がいると・・やりにくい・・・

佐々木は小さな溜息をつきながら前を見た。

隣にいる上村大樹32歳。

不動産会社社長という肩書きを持つが実は広域暴力団龍翔会の

二次団体南光会の会長でもある。

190センチの長身もそうだが、その雰囲気は只者には見えない。

その鋭い雰囲気に面接を受ける人もびくびくしている。

佐々木は小さく溜息をついた。




取立てて気に入った者もいなく面接は進む。

「次か・・・。」上村が紙をめくって言った。

面接者は残り1人になった。

コンコン。とノックの音が聞こえ「失礼します。」

という声が聞こえた。

男の声にしては高い声だ。



ドアが開いて、男と言うか少年と言ってもよい面影に驚く。

隣の上村も目を見はって見ている。

「真崎馨と申します。」

佐々木と上村を前に馨はニコニコと微笑んで言った。

佐々木はコホンと咳をして馨に座るように言った。

馨は微笑みながら椅子に座った。



「君は高校生だよね。」上村が口火を切った。

「はい。蒼明学園 高等部に通っています。」

上村の方をまっすぐみて馨ははきはきと答える。

物怖じしない子だな。佐々木はそう思った。



「蒼明と言えば、有名私立だよね。

 しかも、君のお父さんは有名な会社の社長だね。

 それなのに何でうちのような会社を選んだのかい。

 お父さんの会社でバイトすれば良いじゃないか?」

「父の会社を継ぐのは私の兄です。

 私は、父や兄のことは大好きですが、兄達のように

 父の仕事に興味を持ちません。

 それで、自分なりに考えて高校生のうちから

 社会勉強をしたいと思いました。」

にっこり微笑みながらもしっかりしたことを言う。

「アルバイトのことは家族には話すのですか?」

佐々木が言うと馨はまたにっこり微笑んで言った。

「家族には、高校生になったら責任を持てと言われました。

 それで、何か失敗したら手助けすると・・・。

 だから、私がアルバイトすることに関しては何も言わないはずです。

 父が会社は経営の鏡だと言います。ここの会社にお邪魔して

 皆様がとても礼儀正しく、そして面接をしてくださる方も

 すごく優しそうで、尚更、ここに勤めたいと思いました。」




佐々木は吹き出しそうになった。上村を怖いと言う人は

多いが優しそうと言う者は今まではいなかった。




上村も驚いて声がでない感じだ。

どうやら本心から言ったらしく馨は椅子の上でニコニコしている。

上村はふっと笑って言った。

「面白い。採用しよう。佐々木後は頼む。」

上村はそう言って部屋をでた。

佐々木は驚いた眼差しで上村を見送るとニコニコしている馨を呆然とみつめた。



 
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