獅子抱く天使

   3 天使の兄弟は守護天使? −7−

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上村のマンションの入り口で車が泊まり上村と馨が

外に出た。あのような事件があったからか、

菅生と佐々木も車を降り、

マンションの部屋の入り口まで送ってくれた。


「それでは、会長。馨さん、ゆっくりおやすみください。」

佐々木がそう言って礼をして、菅生も挨拶をすると

踵を返した。



その時、馨が「菅生さん。」と呼びとめた。

菅生が振り返ると、馨はにっこりと微笑んで言った。

「いってらっしゃい。」



菅生は、一瞬驚いたように目を見張ってから

馨の頭をくしゃっと撫でて言った。

「おう。行ってくる。それでは、会長。」

菅生は礼をすると微笑んでエレベータに乗った。

上村は、馨の肩を抱いて部屋に入った。




「まいったな。」菅生はエレベータの中でそう呟いた。

「馨さんは、悟っていらっしゃるのですね。」

佐々木も頷きながら言う。


「全てを悟ってもにこやかに送り出してくれる。

 ちっ。会長のイロじゃなきゃ欲しくなるな。

 それにしても、馨を狙うとは許せねー。」


「ええ。私の分もとことん潰してください。」

佐々木は、にっこりと微笑んでそう言った。

「俺を誰だと思っているんだ。」

そう言って佐々木に笑いかける顔は極道の顔だった。





上村と馨は、自宅で待機している組員に挨拶をして

そのまま寝室に行った。


今夜は用心の為にカーテンが引かれている。

馨はベッドの近くのソファに座った。


隣に上村が座って肩を抱く。

「馨・・・どうしたい?」

上村はぼそりとそう聞く。

「一緒に待っている。待っているのも大樹さんの仕事だよね。」



馨はそう言いながら上村の肩に寄りかかった。

「知っているのか?」

「う・・・ん?」馨は上村の顔を見あげながら続けた。

「なんとなくはわかるよ。

 それに纏う雰囲気あきらかに違ったでしょ?」

「そんなに違っていたか?」

菅生も馨の兄弟も気配を変えるのに長けている。



「うーーーん。僕はね。勝と過ごした時期がすごく長いんだ。

 だから、そういうのって肌でわかるんだ。

 小さいときから僕はマー父さんや母さんと

 そういう人を送りだしていたんだ。

 中には帰ってこない人もいたよ。」


「マー父さん?」

「うーーんとマー父さんは、元々紅子ちゃんの教育係りで

 紅子ちゃんと母さんが、香港の組織に誘拐されそうになった時

 助けに来た劉一家のメイ父さんがひとめぼれして

 一緒になっちゃったんだ。

 まあ、その時に師匠と紅子ちゃんも結ばれたんだけどね。

 だから、裏では龍翔会と劉一家は手を組んでいるの。」

「そうか。」


「マー父さんや母さんも何をやろうとしているかわかっていたと思う。

 でも時には知らない振りをすることが優しさだって

 母さんが言っていた。

 兄弟で暮らすようになって、カズ兄、マサ兄、ナオ兄、ショウが

 何かをやっているのは知っている。

 そして、大樹さんも、そういう仕事をしている。

 でも僕に話さないってことは皆の優しさだと思うんだ。

 だから、僕は皆を笑顔で見送って、笑顔で迎えるんだ。

 大樹さんとつきあった時改めてそう自分に誓ったんだ。」

上村は、馨をぎゅっと抱きしめた。



この年で、そういう覚悟を持つ者がどれだけいるだろう。

どんなことをしても馨は微笑んで自分を迎えてくれる。

「愛している。」上村がぽつりと言うと馨は嬉しそうに微笑んだ。





「さあて、引き揚げるぞー。」菅生は微笑みながら言った。

周りは凄惨な死体が転がっている。

外に出ると、バイクに凭れて1人の男が立って煙草を吸っていた。

「お疲れ様です。」男は煙草の箱を差し出す。

「気が利くじゃん。双子のどっちだっけ。」

菅生が煙草を咥えると正道はライターをつけて差し出した。



「正道です。後始末はこちらがさせていただきますよ。

 あーー。綺麗に殺らなかったようですね。

 実験用に死体欲しかったんだけどなあ。

 綺麗な臓器くらい残ってないかなあ。」

正道が菅生の服についた血吹雪を見て言った。



「弟君の方に死体はあるだろ?

 それに、あの子の心を傷つけたものはこのくらいでも生ぬるい。」

「それには、賛成。でもあっちの死体はもっと無理。

 ショウ、怒りまくってたから。

 それじゃあ、お仕事やりますかあ。」

正道はそう言って伸びをすると、ちょうど来た黒装束の男達と一緒に建物に消えた。


菅生は肩を竦めて口元だけ笑うと迎えの車に乗り込んだ。



 
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