獅子抱く天使

   3 天使の兄弟は守護天使? −5−

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事務所に入った馨を上村はぎゅっと抱きしめた。

「大樹さん・・・。」

馨はその腕の中でそっと力を抜いた。

「やっぱり緊張していたみたい・・・。」

そう言いながら苦笑する馨を上村はすっと抱きあげ

ソファに運んだ。



佐々木がミルクティを淹れてきて差し出した。

両手でカップを持ち飲むと少し気分が落ち着いた。

「金沢から詳しくは聞いたが。馨、話せるか?」

上村が言った。

馨は、一応順を追って説明した。



説明が終わると菅生は溜息をつきながら言った。

「と・・言うことは、香港系のチャイニーズマフィアが襲ったということですか。」

すると馨は首を振りながら言った。

「僕、少し気になることがあるんだけど・・・。」

「どうした?何でも話せ。」上村が言う。


「あのね。まずね。あの2人、香港系じゃないと思うんだ。」

「それは、どういうことですか?」佐々木が不思議そうに言う。


「書店で2人が中国語で話しているのを聞いたんだけど、

 香港の話し方と違ったんだよ。

 それに”カンノ”か”コウノ”って名前も出てたような気がする。」


「香港の話し方と違うって?」

「ああ。上海系の話し方だね。ほら、日本語だって関西弁とかあるでしょ?

 そんな感じ。」


「なあ。お前中国語ペラペラなのですか?」

菅生が驚いたように半分素の状態で聞いた。

「うん。だって僕の父さんの1人は香港の人だもん。



馨がそう言った時に上村の携帯が鳴った。

上村は少し話をすると馨に電話を切って言った。

「本家に呼ばれた。馨は菅生と行動するように。

 俺は、佐々木と行動する。向こうで会おう。」



馨は菅生と10人くらいの組員に囲まれて車に乗った。

途中数度、ホテルに寄り、車や護衛を変え

本家の裏門から中に入る。




門から入った所に背の高い男が馨を待っていた。

「カズ兄さん。」馨が近寄って行くとその男は

馨の頭をぐしゃぐしゃ撫でて言った。



「さっき、ナオが来て手術は成功したそうだ。

 カオも頑張ったな。」

そう言いながら後ろの菅生に小さく頭を下げて挨拶をした。



中に入ると龍翔会の組長である蓑原光輝とNO2の北村、

先に着いていた上村と佐々木が揃っていた。


馨が入ったのと別の襖が開き、馨の兄弟が入ってきた。

中には、昼間街中で会った双子もいる。

「マサ兄、ナオ兄。ありがとう。」

馨がそう言うと「「なあに大したことじゃない。」」

と2人は微笑んで言った。



皆が、「師匠、師範こんばんは。」と良い子の挨拶をして座ると

馨が上村のそばに座って言った。

「この人、僕の恋人の大樹さん、かっこいいでしょう?」

そこにいる人全員が・・・そんな紹介のしかたあるか・・・

と心の中で突っ込んだ。




その時、馨を迎えに来た男が口を開いた。

背が高く、隙がなくて目が鋭い。

「皆を知っているのは師匠と師範だけでしょう?

 自己紹介します。私は、西條和哉。

 東条コーポレーションの秘書室に勤めております。

 長兄です。」


次にその隣に座った柔和な顔をしている男が口を開いた。

「私は、東条龍道。

 蒼明学園大学の2回生です。次兄です。会社も経営しています。」

「ちなみに、次期総帥予定だよね。タツ兄は。」

のほほんと馨が言う。


次は街角でよく見かける美しい顔立ちの男が口を開いた。

父親譲りの彫りの深い美形をして、耳にはピアスをつけている。


「表面上は、馨の長兄の真崎聖です。

 蒼明学園高校3年で生徒会長。本職はモデルとデザイナーです。」

次に似たような面立ちの男が口を開いた。

「同じく、真崎尊。次兄で四男です。

 蒼明学園高校3年で生徒会副会長。本職はモデルとジュエリーデザインです。」



次に昼に会った双子の1人が口を開いた。

ブラウンの髪に碧の目、どう見ても外国人の風貌だ。


「私は、東条正道。戸籍上はタツ兄の弟ですが

 父は20世紀最後の天才キース・バートンです。

 蒼明学園高校2年で生徒会副会長。本職は医師とプログラマーです。」

名前は古風なようである・・。


同様に良く似たもう1人が口を開く。

「私は、東条尚道。 

 蒼明学園高校2年で生徒会副会長。本職は医師と投資です。

 ちなみに私が六男です。」


「そして、七男が僕だよ。」馨がにっこりと微笑む。



双子の隣に座っている大人びた感じの男が口を開いた。

切れ長の目にクールな風貌をしている。


「私は、馨の次の弟。楠瀬勝と言います。

 蒼明学園中学3年で生徒会長。父は中国人です。」


「そして、ここにいないけれど、もう2人イギリスに双子の弟がいるんだ。」

馨はニコニコ微笑みながら言った。



「真崎グループも大きい企業ですが・・・。」

佐々木がそう呟いた。

馨の戸籍の父、真崎栞の経営する会社も大きな会社である。

しかし東条コーポレーションは日本人なら誰でも知っている巨大企業であり

会長である東条隆道は、日本の経済界の重鎮でありその影響力は大きい。

「突っ込みどころが多すぎて何を聞いて良いのか・・・。」

さすがの菅生もそう漏らした。

上村は、馨をそっと抱き寄せて耳元で何かを囁いた。

馨は、それを聞くと嬉しそうに微笑みながら上村を見あげた。

・・・・それでも馨が馨で良かった。・・・・

その笑みをみていて、馨の兄弟達は心底馨が上村に惹かれていることと、

上村が馨自身を見つめていることを嬉しく思ったのだった。




「師匠、一応馨の診察もしたいので道場の部屋貸してもらえますか?」

少したってから、正道が立ちあがりながら言った。

「ああ。いいぞ。馨行ってこい。」組長が頷いて言った。


「道場いいなあ。俺達も久しぶりに行ってみようかなあ?

 なあ、ミコ。師匠、つきあってくださいよぉ。

 タカ兄も久しぶりに行こうよ。」

と聖が言うと、数人が立ち上り、出て行った。

次の瞬間、部屋の雰囲気ががらっと変わった。




 
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