獅子抱く天使

   3 天使の兄弟は守護天使? −3−

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上村は、車の後部座席で物思いにふけていた。

昨夜、上村は本家に呼ばれ、兄の私室で2人きりで話をした。


10年以上もプライベートでの会話を持たなかったが

思った以上に普通に話せたと思う。


仕事の話や兄の息子である甥の話をして

帰ろうかと思った時に兄は馨のことを話したのだった。



「大樹、これは、龍翔会を纏める立場ではなく、

 唯の蓑原光輝という立場で言わせてもらう。

 もし、跡目争いを恐れて

 馨を選ぶのだったら、辞めとけ。」


「兄さん、それはないです。」

上村は姿勢を正して即答した。鋭い兄の目が上村を探るように見ている。

上村もまっすぐ兄の眼を見返した。



「お前は小さな時から何かを決めると譲ったことはなかった。」

兄はそういいながらふっと微笑んだ。

「もう、守ると決めたんだな。私が紅子に思ったように。」

上村が頷くと、兄は立ちあがって、酒とグラスを取り出すと

グラスに酒をついだ。


兄弟はカチリとグラスをあわすと酒を煽った。


「ふっ。お前と酒を飲む日がくるとはな。

 大樹、馨には、お前が考えている以上に

 強いバックボーンがある。

 どんなことでも受け入れて、守れ。

 それが、兄としての気持ちだ。」

上村はその言葉に頷いたのだった。


本来無口な兄はそれ以上多くを語ることなく

酒を飲み交わしたのだった。


「バックボーンか・・・・。」

上村は車窓から外を見ながらそう呟いた。





「今日は、中華〜〜〜やったあ〜〜!!

 しかも、北京料理は珍しい!!」

馨の目の前には美しい冷菜が並んでいる。


「珍しいってどういうことだ?」

不思議そうな顔で上村が聞く。

「ああ、僕の家の別宅が香港にあるから、

 広東料理ならよく食べるんだよ。」

「別宅・・・って。さすが金持ち・・・。」

菅生が小さく口笛を吹きながら言った。


食事は和やかなムードで楽しく進んだ。

デザートが出ると馨は口を開いた。


「うちは特殊なんだよねぇ。

 全部話せないけれど、話して良い?

 これからのことを考えると

 大樹さんの他にも菅生さんと佐々木さんには

 知っていて欲しいんだ。」


菅生は黙って立って人払いをした。

壁や窓も調べてから座ると上村は隣にいる馨の肩を抱き寄せて言った。

「無理して全部話さなくても良い。話せるとこだけ話せ。」

馨はにっこり微笑んで話し出した。



「表向きは僕は、3人兄弟なんだけれど実は僕には他にも兄弟がいるんだ。

 まあ、それは少しはある話だよね。



 そもそも、僕ら兄弟の父親は皆ゲイカップルだったんだ。

 それで、一番上の兄と二番目の兄の父のゲイカップルのところに

 僕の母が同居することになって、母とそのゲイカップルは

 世の中の道理から外れているだろうけど、3人で恋愛をしたんだ。



 もちろん、お互い離れようと考えた時期もあったらしいけれど、

 3人はお互いを愛し合って、3人で結婚式をあげたんだ。

 そして、それぞれを父とする子供ができたんだ。



 その頃、僕の戸籍の父真崎栞は、後継者問題で頭を悩ませていたんだ。

 栞父さんもゲイで晃父さんをパートナーとして同棲していたんだけど、

 仕事で一財産作ったから周りからの圧力もあったし、

 子供ができないのを晃父さんが苦にしていることを知っていたんだ。



 それを母さんに相談したら、母さんが人工授精して

 自分が産むと栞父さんに言って聖兄さんと尊兄さんが出来たんだ。



 この時、栞父さんと晃父さんと母さんの夫2人は協定を作ったんだ。

 それは、兄弟を皆で協力して育てること、そして20歳までは兄弟を

 離さないで育てること。その他にもいろいろと細かいことを決めたんだ。



 そして、母さんはその頃、冷凍精子と自分の卵で身篭っていた。

 その子も双子で、母さんの夫の1人の籍に入っているんだ。



 そして、次に僕。僕は栞父さんがどうしても、晃父さんの子供が欲しくて

 母さんに晃父さんの精子を渡して僕ができたんだ。


 そして、母は僕の後に香港で1人、イギリスで双子を、同じように産んでいる。

 それで、その初めに決めた協定も生きていて、

 僕は8人の父と1人の母に育てられた、10人兄弟の7番目の息子なんだ。

 ちなみに全員男だからね。」



馨の目の前の男達はその話を頭に家系図を描いて理解しようとしていた。



 
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