「馨さん、アルバイトはよいのですが、
学校で部活などはしていないのですか?」
バイト先で薯蕷饅頭を頬張りながらパソコンを見つめる馨に
佐々木が日本茶を差し出しながら言った。
「ああ、僕生徒会の役員だから部活免除なんだ。」
「生徒会も忙しいのではないのですか?」
「大丈夫だよ。毎朝会議しているから。
うん。皆、それぞれ忙しいんだよね。
だから、完全分担制でそれぞれの仕事をしているんだ。」
「まあ、蒼明学園の生徒会と言えば仕事多そうですしね。」
「確かに少なくはないけれど、こなせない量ではないよ。
それに、秘密兵器がいるからね。大丈夫。」
「なんなのですか?その秘密兵器とは?」
佐々木が不思議そうに言うと馨は肩をすくめて言った。
「秘密兵器だから。秘密だよ。」
仕事が終わる頃になって、菅生が帰ってきた。
馨が仕事の成果を菅生に報告して、立ちあがった時、
佐々木が紙を馨に渡した。
「馨さん、今月分の給料です。指定の通帳に振り込んでおきました。
これが、明細です。」
「佐々木さん、ありがとう。」
「ほう。初めての給料か?明細見てみろよ。」
菅生がそう言ったので、馨は明細を見てピキーンと固まった。
「すす・・菅生さん、これ間違ってるよ。
だって、僕の時給850円だよね。」
「はははっ。時給はそうだが、俺の補佐として株の方で
かなり儲けさせてもらったからな。
その辺は、1%くらい歩合でつけといた。
これでも安いくらいなんだが・・・。」
「すごーい。やったー。これで父の日にプレゼント買うんだ。」
「まさか、それがアルバイトの理由?」
菅生がタバコに火をつけながら言った。
「うん。そうだよ。家は事情があって父の日にあげる人多いからね。
だから、フォトスタンドに兄弟の写真を入れて贈ろうと思うんだ。
兄弟勢ぞろいで撮った写真無いからね。
まず、兄弟で写真撮るのからしなきゃ。」
「写真、撮られるの慣れているでしょう?」
「あ〜〜〜。そうだ。家族のこと説明しなきゃいけないよね。
大樹さんにもそろそろ話そうと思ってたし・・・。
まあ、兄弟には無事この前カミングアウトしたし。
じゃあ、皆でご飯食べに行こう。
その時話すよ。」
「えっ。社長のことお話になったのですか?」
佐々木は驚いたように言うと馨はにっこり笑って言った。
「僕の兄弟は特別だからね。ちゃんと言ったよ。
と言うより、元から知っていた兄もいたけどね。」
「つまり、会長の職業も話したのですか?」
「うん。話したよ。何かまずかった?」
馨は不思議そうに首を傾げて言った。
「いや・・・まずいわけないが、大丈夫だったのか?」
「うん。皆協力してくれるって。
僕も将来はこちらの道に進むと言ったら、
考えていた役割と違ったけれど、
全力で応援すると言われたよ。
なんだか、そう言われて安心しちゃった。」
「本当、変なとこに度胸あるな。」
菅生が半ばあきれたように言った。
「親御さんにも言ったのですか?」
佐々木が聞くと馨は首を振って言った。
「晃父さんは知っているけど栞父さん達にはまだ言ってないよ。
僕的には父さんより先に母さんに上村さんを会わせたいんだけどね。
母さん、今イギリスにいるんだよ。」
「忙しい人なんだなあ。馨の母さんは。」
菅生がそう言うと馨は言った。
「うん。母さん味方につけると栞父さんは認めてくれると
思うんだけどなぁ。
晃父さんは上村さんのこと認めてくれたし。
他の父さんも認めてくれると思うけど、最大の難関はやっぱ栞父さんだなあ。」
|