獅子抱く天使

   2 天使の傍らに見つけた処 −5−

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「馨、今夜、飯に行くとき会わせたい人がいる。」

「会わせたい人?」

「ああ。お前はいつもどおりでいい。」

上村は馨の頭にポンと手を置くと佐々木と一緒に出かけて言った。


「菅生さん?会わせたい人って?」

「まあ、迫力だけはある女性とだけは言っておきましょうか?」

「迫力のある?」

「ええ。そうですね。」

「まあ、いいや。じゃあ、菅生さんお仕事しよう。」

馨はニコニコ微笑みながらパソコンに向かいはじめた。

菅生はその姿を見ながら小さな溜息をついた。



夕方、仕事が終わる頃、佐々木が大きな箱を持って来て馨に渡しながら着替えるように言った。

箱の中は、モスグリーンのスーツだった。

着替えると、佐々木は目を細めてお似合いですと褒めてくれ、

菅生は「さすが、モデルの着こなし。」

と褒めているのかからかっているのかわからない口調で言った。

「え〜〜〜。だって、モデルって言ったっていつも女物だし・・・。」

馨はそう言いながらぷっと頬を膨らませた。

馨は兄と父の会社のイメージモデルをやっているのだが、

仕事の時は女性モデルとして女装しているのだ。

そうは言っても馨は見事にスーツを着こなしていた。



ちょうど、上村が車で到着したので、車に乗ると

上村も「似合うな。」と言ってくれて馨はそれだけで嬉しそうに微笑んだ。



車は高級そうな割烹の前でとまった。

割烹の前には黒い服の組員が何人もいて上村に会釈した。

「大樹さん、今日は会席?立派なお店だね。

 たか爺様のおうちみたい。」

そんな暢気な馨に上村はクッと微笑み、

佐々木と菅生は驚いた顔をした。


大人でもこの雰囲気はのまれて、びくびくする者の方が多いのに

馨は恐持ての組員達ににこやかに挨拶をする。

部屋に案内されると、そこには和服の女がいた。

きつい眼差しで上村の横の馨を見つめる。



「大樹さん、そちらにお座りなさい。」

上村と馨は女の向かい側の席に座った。

「それで、この方があなたの?」

女が言うと上村は頷いて言った。

「はい。」



すると、馨はにこにこ微笑みながら

「初めまして。真崎馨です。」

と堂々と挨拶をして、まじまじと女の顔を見る。

「随分な度胸だこと。」

女は冷たい口調で言った。



「そうですか?褒めていただいてありがとうございます。」

馨に邪気はない。

「それに、随分若いわね。何歳?」

「16歳です。」

「まだ、子供じゃないの?」

「いえ、私の母は18歳で兄を出産しているので

 16歳でも真剣に恋愛はできます。」

「ふっ。面白い子ね。」



「これで、よろしいですか?」

冷たい口調でそう言ったのは以外にも隣の上村だった。

「まあ、私は認めたわけではありませんけど。」

女が言うと上村は

「私はこれで、失礼します。」

と立ちあがった。



「だめだよ。大樹さん。」

馨が上村の袖を掴んで言った。

「何が?」

どう考えても、馨にとってここは居心地の良い場所ではない。

「大樹さんが、僕を紹介するって言うことは

 この方が大樹さんの関わりの深い人なんでしょ。

 なら、僕は一緒にご飯食べる。

 おなかすいたし、このお店美味しそうだから

 さっきから期待してるの。」



この状況でおなかがすくか?

襖の向こうで聞いていた、菅生と佐々木は心の中で馨に突っ込んだ。


「そうね。食事にしましょ。

 大樹さんも座りなさい。」

女もあわてて言うと、上村は何も言わずに座った。



「あの〜〜。障子の向こうにいる方々と

 襖の向こうの菅生さんと佐々木さんも

 一緒にご飯食べたい。」

「わかるのかい?」

女は驚いたように馨を見た。

「はい。気配消してもなんとなく・・・。

 小さな時から武道しているので。」

「ふっ。わかった。

 ほら、皆も入っておいで。」



女がそう言うと障子が開いて北村ともう1人屈強な男が入ってきた。

菅生と佐々木も入ってきた。

屈強な男が殺気をこめた目で馨を見た。

北村が小さな声で「やめろ。」とその男の肩をつかんだ。



 
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