獅子抱く天使

   2 天使の傍らに見つけた処 −4−

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数日後、上村は北村との約束どおり

龍翔会の本家の道場にいた。


「しっかし、久しぶりだなぁ。」

隣には菅生がいる。

上村と菅生が着替えて入って行くと

北村が気づいて近寄ってきた。


「ああ。良く来たな。若い組員の相手を頼む。」

「はい。」


龍翔会で、この道場にいる者は皆が強くなりたいと願う。

「会長・・まずは私が・・・。」



菅生が進み出るとこの道場でも強い組員が菅生の前に出てきて礼をする。

その途端菅生の纏う空気がぐんと冷たくなった。

その空気の冷たさに組員は立ち尽くす。

「あ〜〜。ごめんごめん。久しぶりだからついつい張り切ったな。」

菅生はにやっと口元だけ笑うと構えの姿勢を取った。



次々と組員が菅生によって倒されていく。

「あ〜〜。弱いなあ。うちの若い者の方が強いぞ。」



そりゃそうだ。と上村は思う。

インテリヤクザと見られていても、上村と菅生は武道が強い。

若い頃から鍛えているし、それなりの修羅場もかいくぐっているからだ。


南光会の事務所の地下にも道場があって

菅生はストレスが溜まるとそこで組員相手に

発散することが多く、組員もボコボコにされていくうちに

段々強くなっていくのだ。

しかも、菅生の辞書に手加減という言葉はない。

それが菅生の信念だからだ。




「やれやれ・・じゃあ大樹・・久しぶりに私とお手合わせ願うか。」

北村が上村の横に来て言った。

2人は、菅生が若い組員が対峙している横で向き合った。

北村が殺気を一気に出す。

菅生と若い組員を見ていた組員が北村の殺気に気がつき驚いたように

そちらを見た。



一方の上村は殺気を出していない。

むしろリラックスしているような気すらする。

「すげぇ・・。」男達が呟く。

北村が動くと上村も動く。

攻撃的な北村に対し上村は防御しかしない。

そして、最後は、ピンポイントで急所を狙い、寸止めした。



北村はゼイゼイ言いながら殺気を消しながら言った。

「まいった・・・精進しているんだな大樹。」

「いえ。」上村はそう言って礼をした。

「かっこいい・・・。」組員がどよめく。


着替えるために退室する上村を菅生も追う。





着替えて道場を出ようとしたところで

向こうから和服姿の女性が現れた。

女性の後ろには何人もの組員がついている。

上村は丁寧に挨拶をすると女は不服そうに言った。



「本当に久しぶりね。大樹さん。」

「色々と忙しかったもので・・申し訳ありません。」

上村は形式上のように頭を下げた。

「そう?ところで、この前のお話かなり良い話だと思ったのだけど・・・。」

「姐さん、申し訳ありません。

 まだまだ、私も若輩者なので、仕事で力をつけていきたいのです。

 なので、勘弁してもらえませんか?」

「あんたには幸せになってもらいたいのに・・・。

 本当に良い縁談なのだよ。」

「姐さんのお気持ちだけ戴いておきます。」

上村は頑なにそう言った。



和服の女は溜息をつきながら言った。

「あんたに大切な人がいるのは調べがついている。

 連れてきな。」

「何しろ、カタギなものなので・・。」

上村はなるべく冷静に答えた。

「あんたとつきあうということはそうとも言ってられないでしょう。

 私が会って認めたら今後いっさい口は挟まない。
 
 それでどう?」

女はそう言いながら口角をあげる。

上村は女を見つめると出てきそうになる溜息を押し殺し、

低い声で「わかりました。連れてきます。」と言った。




女が行くと上村と菅尾は待っていた黒塗りのベンツに乗った。

・・・いくら物怖じしないって言っても大丈夫かねえ・・・

菅生は後ろで眉間に皺を寄せている上村を見ながら

こっそり溜息をついた。



 
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