獅子抱く天使

   2 天使の傍らに見つけた処 −3−

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次の日、上村はいつもの時間に目を覚ました。

腕の中の馨はまだすやすやと眠っている。

「俺が捕らわれたか・・・・。」

上村はそう言いながら馨にキスをして

そっとベッドを降りた。


昨夜の馨はいつもと違った。

馨はいつもよりずっと積極的で、

身体中をキスしてくれ馨の中で果てると

上村の頭を抱いて「自分はずっとそばにいるから。」

と魔法の呪文のように何度も言ってくれた。



それはとてもとても優しくて、優しいセックスがあることを

上村は昨日初めて知った。


そのまま満ち足りた気分で眠りにつき、目を覚ましてから

馨の身体を清めたのだった。

着替えて居間に行くといつもの朝のように若い組員が

コーヒーを差し出す。

上村は馨の護衛を頼んでいる林と金沢に後を頼んで

部屋を出た。





馨は目を覚ますと思い切り伸びあがった。

「あ〜〜。土曜日で良かった。大樹さん仕事行ったんだね。」

隣をみると枕にメモが乗っていた。


馨へ

疲れているはずだからゆっくりと休みなさい。

右側のクローゼットに馨の服入っているから着なさい。



馨は寝室に繋がっているバスルームに行き、

シャワーを浴びるとクローゼットを開けて言った。

「な・・・何?この服・・・。」

そこには、たくさんの服が掛かっていた。

「でも・・素直に嬉しいかも・・」

そう言いながら、ブルーのシャツを着てチャコールグレーのパンツをはく。




居間に行くと林と金沢が馨に挨拶をする。

この家でプライベートスペースは寝室だけである。

上村が帰さないかぎり、居間には常に誰かがいる。

それを知らずに、シャツだけ羽織り水を飲もうと寝室のドアを開けた馨は

とても恥ずかしい想いをした過去がある。

「馨さん、おはようございます。もっとゆっくりしてもよろしいのに。」



金沢がにこやかにそう言うと馨は頬を染めた。

昨夜のことをこの2人が知っているようで恥ずかしかったからだ。

林が、朝食をテーブルに並べてくれる。

「今日は、近くのベーカリーからパンを買ってきたのですよ。」

「わーーい。じゃあ、皆で食べよう。」

馨はそう言って皿を持ってきた。

「俺らはよいですよ。」

金沢が言うと馨がにっこり微笑んで

「一緒に食べよう。お願い。」と言ったので

2人は恐縮しながら椅子に座り一緒にパンを食べはじめた。







「大樹。待たせたな。」

「お久しぶりです。北村さん。」

上村は丁寧に挨拶をした。

相手はがっしりとした体格で50代と感じさせない

男である。北村は、上村の南光会の上部団体龍翔会の

組長の側近中の側近と言われている男である。


「そんな・・。他人行儀な。俺と大樹の仲でないか。」

昔から上村を可愛がっていた北村はどこか寂しそうに言った。

「いえ。それでも北村さんは敬うべき方ですから。」

北村は、一瞬顔を曇らせたが、話題を切り替えた。

「しかし、南光会はすごいな。

 シノギで言えば、飛ぶ鳥を落とす勢いだな。」

「ありがとうございます。

 オヤジの顔に泥を塗るわけにはいきませんからね。」

「あの方はお前が思うような方じゃない。

 それよりも、縁談断ったみたいだな。

 姐さん、俺にカマをかけてきたぜ。」


「ええ。お断りしました。」

「何でだ?」

「今、惚れてる奴がいるんですよ。本気でね。」

「本当か?」

北村は驚いたように上村の顔を見た。


「ええ。でも他言は無用です。

 カタギですし・・。

 当分、あいつの事知られたくないのです。」

「わかった。姐さんにもあの方にも言わない。」


「オヤジは元気ですか?」

「ああ、元気だ。大樹もたまには顔を出すと良いのだが

 義理事しか顔ださないから寂しがっているぞ。」

「そうですかね。」


「ああ。たまには道場でよいから顔を出せ。」

龍翔会の組長の家には道場もあり独自の武術を推奨している。

上村も若いときからそこに通っているのだ。


「ええ。わかりました。そのうちに・・・。

 強い奴いますかね?」

「大樹より強いとなったらオヤジしかいないだろう?」

苦笑いしながら北村が言った。


「そうですかね。」

「ああ、後、日曜日の朝はカタギの子供に教えているから来るなよ。」

「カタギの子供に?めずらしいこともあるもんですね。

 わかりました。その時は菅生も連れて行きましょう。」


「楽しみにしているぞ。」北村はそう言って鷹揚に笑った。




 
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