獅子抱く天使

   2 天使の傍らに見つけた処 −1−

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「あっ。大樹さんだぁー。」

馨は学校帰りに迎えに来てもらう車に

上村が乗っていて嬉しそうににこにこ笑った。



上村大樹32歳。不動産会社社長という肩書きを持つが実は広域暴力団龍翔会の

二次団体南光会の会長でもある。

190センチの長身もそうだが、その雰囲気は只者には見えない。


一方、真崎馨 名門私立蒼明学園 高等部1年生になったばかりだ。

背は152センチになったばかりで体型も華奢。

そこらへんの女の子よりも愛らしい。



この接点の無さそうな2人なのだが

馨が上村の不動産会社にアルバイトとして面接に行って

お互い惹かれあって恋人同士になったばかりなのだ。



上村の職業を知った馨は、その不動産会社ではなく、

上村の組の事務所でアルバイトをしている。

事務所が事務所だけに学校が終わると車で迎えが来るのだ。





「馨、今日は一緒に行ってほしいところがあってな。」

上村がそういうと馨はコクンと頷いた。

車は大きなお寺についた。



「ここからは、馨と2人だけで良い。」

上村は周りにそう言うと

馨の肩を抱いて寺の門をくぐった。

上村は慣れたようにさっさと墓地の方に歩いて行った。

1つの墓の前に来るとそこには花が飾られていた。


「ここ?」馨は驚いたように上村を見つめた。

上村はスーツのポケットから線香を取り出すと

ライターで火をつけながら言った。

「俺の両親の墓だ。」

「そうなんだ・・・。」



上村が手を合わせた後に馨がしゃがんで手をあわせて言った。

「はじめまして。大樹さんのお父さん、お母さん。

 僕は真崎馨と申します。

 今、大樹さんとお付き合いをさせて戴いています。

 僕はまだ16歳で大樹さんと比べると子供です。

 それでも、大樹さんは僕の手を取ってくれました。

 おかげでとても僕は幸せです。

 僕も大樹さんを幸せにするので、

 ずっと僕達を見守ってください。」

馨が礼をして立ちあがると上村は馨をぐっと抱き寄せて

ぎゅっと抱きしめた。

「本当に可愛いな・・馨・・・」



「あれ・・・ここ誰か来たみたいだね。」

馨がまだみずみずしい花を見ていった。

「たぶん、兄だろう。」

上村は目を細めて言った。

「お兄さん、いるの?」

馨はきょとんとして言った。

「ああ。年の離れた兄貴がいる。俺と16歳も離れている。

 今は遠い存在になったが、馨にはそのうち会わせる事になるだろう。」

「へぇ〜。16歳も違うとほとんどお父さんみたいな感じだね。」

「ああ。ここにも書いているように俺の両親は俺が3歳の時に亡くなった。

 兄は俺を大学まで出してくれた。

 結局俺も同業になったのだがな。」

上村はそう言いながらそっとまた馨の肩を抱いた。


「お兄さんは遠い存在になったかも知れないけれど、

 僕はいつも上村さんのそばにいるからね。」

馨は上村を見つめてそう言った。

兄のことを語る上村が少し寂しそうに見えたからだ。



「そうか?」

「おぅー。男と男の約束だよ。」

上村はクッと口元だけに微笑を浮かべ馨と黒塗りの車に乗りこんだ。



「馨?今日は何を食べたい?」

「うーーんと・・・今日はお弁当でも買って大樹さんとこで2人きりで食べたいの。

 あのね。僕ね。お弁当屋さんって行ったことないから

 行ってみたい!」

「弁当屋か・・?おい、適当なところでとめてくれ。」



上村は車を運転していた組員にそう言い、馨と連れ立って

弁当屋に入っていった。

「う・・・んとね・・。僕はハンバーグスペシャル弁当。

 大樹さんは?」

「デラックス弁当。馨、食べたいものあったら他にも頼めよ。」

「じゃあ、事務所の皆にも買ってあげたいな。」

「いいだろう。」

「すみませ〜ん。幕の内30人分。」

「お客様・・お時間戴きますが・・・。」店員は驚いたように言った。

「じゃあ、最初の2つの弁当だけ作ってくれ。

 後の分は1時間後取りに来させる。」

上村はそう言い、弁当を受け取ると馨の肩を抱いて車に乗り込んだ。

上村の雰囲気に圧倒された店員はよろよろと

店の隅の椅子に腰を降ろした。









「何かい?大樹さんは見合いを断って男とつきあっているって?」

「は・・・い・・・。」

報告に訪れた男はダラダラ汗を流している。

それだけ、男の目の前にいる女は迫力があった。

「それで、そのつきあっている男の素性調べたのかい?」

「あの・・・それが・・・まだ。」

「何トロトロしているんだい?」

和服姿の女が、強くそう言うと男は、すぐに・・・と呟きながら

部屋を後にした。




 
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