ルーレンの夜明け

       第9話 ゼストとアリとの別れ

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その数ヵ月後、世界樹のふもとには

濃い茶色の服に身を包み背中にこの世界に来たときに

父が持たせてくれたリュックを背負った理緒の姿が

あった。


その傍には、ゼストとアリの姿もある。

「俺・・行くよ。」

理緒がそう言うとゼストが頷いて言った。

「ああ、気をつけて。リオ。

 世界樹の方は、わしとアリに任せてくれ。」



「リオ、元気でね。」

アリが理緒の腰に抱きついて言った。

「アリ、世界樹を頼むよ。」

理緒はそう言ってアリをぎゅっと抱きしめた。



この島は元々小さかったのに

心から美しい世界を願った理緒の言葉に

反応したのか、一夜にして島が大きく、

そして、土地が潤い森には様々な生き物が

住むようになった。



それと同時に理緒が世界樹の化身というのが

現実味を増したので、島中の人が理緒を神聖化するようになった。

そこで、困ったのは理緒を万能の神のように

扱う人が多くなったことだった。


理緒は、魔法を持つわけでもなく

人の願いを叶えることができる存在ではない。

しかし、島の人は理緒に様々な願掛けにやってくる。

そして、世界樹を探しに森に入る者も増えたので

森の動物達が殺されたり、木々が荒らされるようになった。


心配したゼストは、世界樹の近くに小さな家を建てて

そこで生活して、村の方に降りていくことも少なくした。


理緒は森に入って世界樹を探すものは

探せずに森の入り口に戻るということを

心から願った。



どうやら、心から願うと理緒の願いは聞き届けられるようで、

それからと言うもの世界樹の近くに人の気配を感じることは無くなった。

その生活に少し落ち着いた頃、理緒はゼストにルーレンという世界を

見に行きたいと言った。



ゼストは心配そうにしていたが

「それが世界樹の化身であるリオの願いならわしが

 反対することはない。

 わしは、アリとこの世界樹の面倒を見ている。

 実は、私は神官や騎士ではないから

 詳しいことはわからないがルーレンには

 アリのような子供でも知っている御伽噺があるんじゃ。

 黒髪、黒い目の世界樹の化身様は5人の騎士に守られ、

 5人の神官に仕えられている。

 5人の騎士は身を呈して化身様を守り、

 5人の神官は身を呈して化身様の命令に従う。」



「5人の神官って・・まさか。」

理緒は思わず自分の腰を摩った。

「ああ、たぶん、リオと伴にいる神官は

 元々は前の化身様の神官だったのだろう。

 今、ルーレンはリオにとって優しい世界では

 ないかもしれない。

 危ないときは、 リオいつでもここに戻っておいで。」

ゼストはそう言うと自分の知っている限りの知識を

リオに教えてくれた。



そして、夕闇がせまる頃2人に別れを告げ、しっかりした

足取りで島の南側に出た。



岩陰にゼストが隠していた小舟を引っ張り出すと

海に浮かべて荷物を小舟の上に乗せ、そして裸になると

そのまま浅瀬を泳いで小舟を移動させる。

理緒にとって長く泳ぐのは軍隊でも経験があるので

あまり苦にならない。



とにかく沖の方に出るまで理緒はそのまま泳ぎ続けた。

普段は荒い海も不思議と荒れずに凪いでいる。

しばらくして沖に出ると理緒はゼストに習ったように

小舟に帆を立てた。



帆は穏やかな風を受けて静かに東の方向へ舟を進める。

ゼストが言うには海が凪いでいると次の朝早くには

陸地がみえるらしい。


理緒は舟の上であたたかい衣服に着替えると

リュックに入っていた寝袋を出すと

その中に身を横たえ、眠りについた。





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