ルーレンの夜明け

       第81話 精霊達の暴走

本文へジャンプ




ガイはゆっくりと目を開けた。

あれだけの攻撃を受けたのなら

衝撃があって魔力が尽きて落ちるだろうに

何も衝撃がない。

目を開けたガイが見たのは、とても大きくて美しい鳥が

カラスのような鳥に攻撃を仕掛けているところだった。

「まさか・・マイラ?」

聖鳥マイラは、黒い鳥を大きな足で掴むとそのまま振り落とした。

すると、その黒い鳥から黒い煙のようなものがあがり

その気体をマイラは口から吸い込むと、もう一度口を開け黒い鳥に

向かって薄青色の気体を拭きかけた。

すると、その黒い鳥は薄青色の鳥になり、どこかに飛び立った。



「なんだ・・・?」

ガイが呆然としていると、腕の中の理緒がガイを見あげて

言った。

「お願い。空を降りて。あの鳥の背に乗っていた2人はきっと怪我をしている。」

理緒の真剣な顔をしてガイをみあげたのでガイは小さく頷いて

高度を下げた。

地面が見えるようなると、先ほどの2人の周りに5人くらいの人が

いて、その周りを風と火と水が渦を巻いて囲んでいた。

皆が腰を抜かしてペタリと座り込んでいる。

「上級生ばかりだな?なにがあった?」

ガイはそう呟きながら地面に降り立った。


理緒の耳には渦をおこしている精霊の声が聞こえた。

・・・私達の大切な方になにを・・・

・・・許しておけない・・・

・・・私の加護はもう渡せない・・・

・・・人よ。代償を・・・

・・・我らは従う者ではない・・・

精霊達は怒って我を忘れ、火と水は生き物のように渦をえがいて

竜巻のようになっていた。



理緒は、まっすぐ渦の方へ歩いていこうとした。

「おい。危ないぞ。」ガイは理緒の肩を掴んで言った。

「精霊の怒りをなだめなくちゃもっとひどいことになる。」

理緒は毅然と言った。

「お前・・・。あいつらは攻撃してきた者だぞ?」


あの攻撃で自分達が地に落ちると大怪我をするのは目に見えていた。

理緒は知らないが、日の出寮の魔法学校の生徒は日々の虐めに

耐えていた。マスクをつけることで人を特定されないように

して、寮に帰るのも団体行動を取るようにしている。


しかし、やはり苛めに耐えれなくなった新入生は

どんどんその人数を減らし、新学期になっても学校に出てこない生徒が

たくさんいる。

いつも虐めている者を助ける。それは正しいことかもしれないが

同時に恐怖でもあった。

「それでも、ここで見捨てると俺が後悔するから。」

理緒はそう言うと渦の方に歩きだした。


「待て!」ガイもその後を追う。

ここにガイを踏みとどめさせているのは、

新入生である理緒を見捨てることができないということだけだった。

ガイと理緒は慎重に精霊の渦の近くに行った。



理緒はその渦に向かって黙って手を伸ばした。

・・・俺の為に怒らないで・・・

理緒はそう話しかけた。


でも渦の中の精霊達は我を失っている。


「ガイはここで待っていて。」理緒は振り返りながら

ガイを後ろの方へ突き飛ばし、そのまま渦の方へ入って行った。



「おい!」ガイはすぐに立ちあがるとぎゅっと手を握りしめて

渦を睨んだ。

「チッ。もう、これ以上新入生を減らされてたまるか。」

ガイはそう言うと魔力を使って空に飛びたった。




理緒が渦の中に入ると、妖精の戸惑った声が聞こえた。

・・・化身・・・様・・・

・・・だめ・・・来ては・・・・



それと同時に理緒の前に緋聖が現れ、

「静まれ〜〜〜!!」と大声を出した。

・・・長さま・・・?・・・

精霊達は我に返ったように静かになった。

「君達、化身様を悲しませてどうするんだい?」

緋聖がえらそうな口調で言った。

・・・化身様・・・・

・・・ごめんなさい・・・

・・・私を見捨てないで・・・

精霊達が不安そうに理緒の周りを光の玉になり

浮いている。

「大丈夫。君達を嫌いになるはずはない。おいで。」

理緒はにこっと微笑み手を差し出すと光の玉が嬉しそうに纏わりついた。

精霊達は嬉しそうに歌を歌い始める。

それと同時に竜巻のような渦も穏やかになりはじめた。


理緒が恐怖の為かいつのまにか倒れている5人の方へ歩きだそうとすると

同時に後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「ガイ・・・?」

理緒は驚いたように言った。

ガイは水で全身がぐっしょり濡れて髪は所々焦げ、

腕や顔も火傷をしている。

「もう、人が減るのは厭なんだ。大丈夫か?怪我してないか?

 熱くなかったか?どこか痛くないか?」
 
自分よりも理緒の心配をするガイに理緒の胸に熱いものがこみあげた。


 BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2010 Jua Kagami all rights reserved.