ルーレンの夜明け

       第78話 精霊の里

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昼食後、リオンは神殿に向かった。

調理学校の校長であるオーレンに

最高神官のところに行くように言われたからだ。

リオンが神殿の方に行くと、物陰から「こっちじゃ。」

と最高神官が手招きをした。


「神殿の受付からわしの部屋で面会をするには

 何重も手続きが必要なのだ。
 
 だから、この道を覚えてこれからは直接来てほしい。」
 
最高神官はそう言うと、神殿の裏の方に来て

蔦に隠れた入口から中に入り、暗い通路を通り

物置きのような部屋を抜けると最高神官の執務室がある廊下に出た。


最高神官は執務室には行かずに廊下を奥の方へ歩いて行き、

小部屋のドアを開け、小さな階段を降りはじめた。

理緒もその後に続く。


その階段を降りきったドアの前で最高神官が言った。

「化身様、このドアは私は開けることができません。

 どうか、このドアを開けてください。」


 
理緒は、ドアノブに手を伸ばすと静かにドアを開けた。

そこは、中庭のような場所で美しい庭園が広がっていた。

庭園の中に、平屋の大きめな建物があった。

「ここは?」理緒が驚いたように言うと



「ここは、リオの為の家です。」理緒の斜め前に緋聖が現れて言った。

「緋聖?」

「私は、ここから先には入れません。後は精霊殿にお任せします。」

最高神官は礼をして自分の執務室へ戻って行った。



「なんで、最高神官はここに入れないの?」

「ここの空気は世界樹の近くと同じく神聖なので、力がある人と言え

 ここにいるのは辛いのですよ。この場所はローレンシャで
 
 化身様がリラックスして過ごす為に精霊が作った場所なのです。
 
 ほら、だから紫苑も。」
 
理緒は、外だと空に飛び立った紫苑を見た。


紫苑は普段の小さな姿から大きく美しい姿に変えている。

「この空間は、精霊が管理していたのです。

 どうぞ。建物の方へ・・・。」
 
建物の前は大きな世界樹のような樹があった。


その樹の前には魔方陣のような紋様が地面に描かれている。

「魔法の授業で転移の勉強をなさったら、ここから

 今まで言った場所に行くことができますよ。」
 
「ここから?」

「ええ。そして、この世界のどこからでもここに転移することも可能になります。」

「ここに転移?」

「そうです。ただし、ここに来れるのは化身様と騎士様と力がある神官だけです。」

「なんで、ここがあるのに使わなかったんだろう?」

理緒がポツリと言った。



それは、理緒の親である前の世界樹の化身の事だ。

「ここに騎士と共に転移できるなら、危機が迫った時転移すれば良かったのに。」

「何かがあったとしか言いようがないですね。」


緋聖は困ったようにそう言って、建物の方へ理緒を促した。

建物に近寄るとドアが自然に開いて理緒を迎えた。


中に入ってすぐに居間がありそこの大きな窓から美しい景色が見える。

向こうには滝もあり素晴らしい景観だ。

水面からはキラキラとした光がのぼり、そして滝の向こうには

火山から煙がでている。

「うわぁ。綺麗だなあ。」

理緒は窓に近づいて言った。

「ええ。ここは精霊達の里でもありますからね。」

「精霊達の里?」

「そうです。あのドアからこちらは精霊達の為に作られた空間なのです。

 だからここはローレンシャの地図にも載らない場所です。
 
 私達精霊はここで産まれ、そして風にのってルーレンの地を巡り
 
 守るべきものを守るのです。」
 

「ちょっと待って。精霊ってその命に寄りそう存在じゃないの?」

「いえ。それは違います。

 例えば、野菜や果物を食べたからといって、精霊達の悲鳴は聞こえなかったでしょう?」
 
「確かに、俺が精霊達の悲鳴を聞いたのは闇だ。闇の中に精霊達の悲鳴が聞こえた。」

「闇は、善なる精霊を蝕みますからね。

 精霊にも素の精霊と守の精霊と慈の精霊がおります。」

 
「3種類もあるの?」

「いえ、大きく分けると3種類あるということです。

 素の精霊は、光の精霊、水の精霊、火の精霊、地の精霊、風の精霊がおり、
 
 この精霊達はこの里で産まれます。
 
 守の精霊は、それぞれの素の精霊が作りだした精霊です。
 
 守の精霊の役目は命を守ること、例えば水の精霊は川を守るために川の精霊を作り、
 
 風の精霊は花を守るために花の精霊を作ります。
 
 慈の精霊は、人が作りだす精霊です。例えば、何かに愛着を持って大切にすると精霊が
 
 宿ります。だから、腕の良い職人達は道具を大切にするのですよ。」
 
理緒はその話を聞きながら美しい光景を眺めながら思った。


ここから先は精霊の場所なのだ。だから、里を見渡す事はできてもこの先には

足を踏み入れることができない。いや、踏み入れてはいけないのだ。と


 


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