ルーレンの夜明け

       第77話 調理学校の専攻

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「リオン一緒にご飯食べない?」アニスに言われた理緒は

「ごめん。先約があるんだ。」と断り、授業が終わると

地図を見ながら、調理学校の校舎の方に歩いて行った。


理緒が調理学校の玄関から入ると、そこには面接試験で

会った初老の男が待っていた。

「リオン。来ると思っていたよ。入学おめでとう。」

「ありがとうございます。」理緒はそう挨拶をすると

男は玄関にいる武術神官に言った。


「これから昼にはこの子がいつも来るから

 通してくれ。」
 
武術神官は「かしこまりました。」と礼をした。



男は廊下を歩き、奥の部屋に理緒を招き入れた。

すると、そこには給仕する生徒が2人いて

男と理緒を席に案内した。

「校長先生。今日は、学期初めての試食会になりますので

 リタニア王国宮廷料理を楽しみ戴きます。」
 
その言葉で驚いたように理緒は男を見た。

「ああ、自己紹介がまだだったよな。

 私は調理学校の校長。オーレンだ。」

オーレンは微笑みながら言った。



食事の最中オーレンは、料理の名前から

その所以を詳しく説明してくれた。

食後の茶菓が置かれ、給仕役の生徒が

部屋を出るとオーレンは静かに口を開いた。



「私は、本当はリオンに専攻を決めるつもりで

 昼食に招待した。しかし、君の正体を知り
 
 君だからできることってあるような気がした。」
 
「私の正体?まさか・・?」


「各学校の校長だけには最高神官直々で

 話を聞いている。もちろんリオンの意向
 
 に沿うつもりで皆がいる。」

「それで、私ができることとは?」


「ルーレンは、今情勢が良いわけではない

 ローレンシャに寮が2つあるように
 
 この世界は二分されている。

 そして、住む人もお互いをわかりあおうとはしない。」
 
「そんな・・・。」


「それは残念なことに料理の上でもそうなのだ。

 これから食べると思うが、各国の料理は
 
 それぞれが素晴らしいものだ。
 
 だが、教員の神官ですら他の国の料理を食べようとしない。
 
 この学校で全ての国の料理を食べているのは
 
 私だけだ。」

 
「そんなに根が深いのですか?」

「ああ。世界樹が枯れたことでこの世界が混沌した。

 それの原因を作った国を許せないというのが化身様信仰をする国である。
 
 そして、滅んで闇を作った化身様に問題があると主張する国もある。
 
 そうしている内に、闇が人を殺した。するとその憎悪も深くなる。
 
 結果お互いの国を憎むようになったんだ。」

「そうなのですか。」


「そうしているうちに他国とは混じらないようになった。

 だから、ローレンシャの学校の体制すら二極化せざるを得なかった。」
 
「根深い問題ですね。」


「ああ。しかし、化身様が現れたことでこれから変わるだろう。

 そして、リオン。君が化身様に友好的でない国に行く覚悟があるなら
 
 私はその手伝いをしたいと思う。」

「手伝い?」


「ああ。私は、唯一どの国に行っても客として受け入れられる。

 それは、各国の宮廷料理人の認定人だからだ。
 
 しかし、公平な判断を下せるものは少ないが為、後継者がいない。
 
 その後継者にリオンを育てたいと思う。」

 
「具体的にどんなことをするのですか?」

「まずはいろいろな国の料理、風土、そして背景を覚える。

 そして、もちろんその料理を自分で作れなくてはならない。
 
 私がみっちり仕込んで立派な認定人に育てたいと思う。
 
 どうかね?」

 
その話は願ってもない話なので理緒は「お願いします。」と頭を下げた。

「君の授業時間は昼の試食会だ。本来専門学校の授業は他の生徒がいるから

 来週からになるが、君は明日から早速授業に入る。」

時間が無い理緒の為に配慮してくれたオーレンの気遣いが嬉しかった。


 


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