ルーレンの夜明け

       第75話 懐かしい味

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理緒が部屋に戻るとフランは読書をしていたが

手をとめてお茶を淹れてくれ、小さな缶を開けて

焼き菓子を出してくれた。


「この焼き菓子ってフランが作っているの?」

理緒はホロリと口の中で溶ける菓子を食べて言った。

昼、フランのお母さんのお菓子と同じ味がした。


「ああ。今日の午後、神殿の方の厨房で作って見たのです。

 寮の方の厨房は調理学校の方しか入れないですから。」
 
「おいしいね。俺、甘すぎる菓子苦手なんだ。」

「久しぶりに作りましたよ。」フランはそう言いながら優しく微笑んだ。



「これはフランの家の味?」何気なく理緒が言うと頷きながらフランは言った。

「ええ。お気づきでしょうが、街で会ったのは私の母です。

 この菓子は母がよく作ってくれたものです。

 今朝はあんな態度を取りましたが、色々と事情がありまして・・・。」

 
「フラン。俺は詳しいことはわからない。

 でも、俺はある日突然両親と別れなければならなくなったんだ。
 
 俺と両親はとても仲が良かった。それでも、もう会えないと思うと
 
 母さんの為にもう少し保存食を作ってやればよかったとか
 
 買い物を嫌がらずにつきあってあげたかったとか思うんだ。
 
 だから、フランにも後悔しないようにしてほしいと思う。」

 
フランは、驚いたように理緒を見つめた。もっと理緒が

何かを聞いてくると思ったからだ。しかし、実際理緒は

何も聞くことはしなかった。この年齢で(フランは理緒を10歳くらいだと

思っている。)親と離れなければいけないとは辛かっただろうにと

考えると、なんだか今まで悩んでいたことがとても小さい事だったように

思う。だからと言って問題が解決したわけではないのだが



これから自分なりに気持ちの整理をしていこうとフランは思った。

「リオン、ありがとう。」フランはそう言うと理緒の頭を優しく撫でた。


理緒はにっこりと微笑んで勢い良く立ちあがって言った。

「フラン、夕ご飯食べに行こう。

 久しぶりの肉〜〜〜♪」
 
フランはあわてて立ちあがって言った。


「夕食は良いですけれど、肉はだめです。

 まずは消化の良いものから食べないと・・・。」
 
「いや。フラン・・もう調子良いって、だから肉・・・。」

「やっぱり今日はこちらに持ってきます。

 リオンの事ですから食堂に行くと絶対暴食するはずです。」

 
「いや・・だから、大丈夫だって。」

「わかりましたね。」フランはにっこり微笑んでそう言う。


「に・・・・くぅ・・・・。」

「リオン。それでは良い子で待っているのですよ。」

フランは理緒の意見を軽く無視して部屋を出ていった。



理緒は、軽く肩を竦めてお茶の道具を片づけ

テーブルを布巾で拭いた。

しばらくするとフランは大きなトレーを

抱えて部屋に入ってきた。


「同室者がお肉が食べたいって愚図っている

 と厨房の料理人に言いましたらこれを
 
 持たせてくれましたよ。」


そう言って、大きめの鉢を理緒の前に置いた。

「すごい〜〜〜。」

理緒はそう言うと、その鉢をのぞいた。

「鶏肉のスープに麺を入れたカナチャという料理ですよ。

 リオンの為に鶏肉たくさん入れてもらいました。」

理緒はフランからフォークを貰うと早速食べ始めた。



麺はうどんの細麺のような感じだがスープの味はラーメンだ。

「すごい・・すごいよ。フラン。」

「これはリタニア王国の北側のある地域で食べられている

 料理ですよ。あっ。リオンどうしたのですか?」
 
理緒の眼からポロポロ涙が零れるのを見て

フランは慌てて言った。



「何でもない。熱かったから。ほんと俺にとってこれは御馳走だよ。」

理緒はそう言うと袖で顔を慌てて拭いて

料理を食べ続けた。

久しぶりのラーメンの味は何だかとても懐かしくて

本当においしかった。



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