ルーレンの夜明け

       第74話 神官の能力

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「リオ、どうした?」

泣きそうな顔で自分の顔を見あげる理緒にギルスは

驚きながら部屋の扉を大きく開けて中に入るようにと言った。


ギルスの部屋は飾り気がなく、机に古い書物がたくさん積まれていた。

ギルスは書物を椅子からのけてそこに座るように言うと

理緒はチョコンと座った。


「で・・そんな泣きそうな顔してどうした?」

「ギルス?神官なるって辛いことなの?」

理緒はどう言いながらギルスを見あげた。


「はあ?どうしてそんな話になるんだ?」

「今日、新学期から必要な物があったからフランの案内で街に行ったんだ。

 それで、帰りにフランのお母さんに呼び止められて
 
 フランはそれを振り切って帰ってきたんだ。
 
 俺は、何だかそれが気になってまた1人で街に行ってフランのお母さんを
 
 探して話を聞いたんだ。」

「リオ・・・。」ギルスが顔を少し顰めたので理緒は慌てて言った。

「うん・・。おせっかいだなとは思ったけれど気になったんだ。」

「それで?」

「俺は詳しいことを聞くつもりなんてなかった。

 でもフランのお母さんは俺に寮でのフランの様子を聞いて
 
 それからいろいろな話をしたんだ。」
 
「それでなんでリオは落ち込んでいるんだ?」

「神官になることって自分を犠牲にするって本当?

 まるで生贄のようにフランのお母さんが言ったんだ。

 ローレンシャで神官になるって不名誉なことなの?」

「犠牲?何の話だ?」

「ローレンシャの商店の子供は必ず1人は神官になるって。

 そうした商店は栄えるから。その代わりその神官は恋愛したり
 
 子供を持てないって。」
 
「そういうことか・・・。」ギルスはそう呟いた。

「神官って、職業のひとつみたいなものだと思っていたんだ。

 でも、違うの?」
 
「リオ、まず落ち着け。ちゃんと説明する。」

「うん・・。」


「神官になるというのは、一生に一回の大判断だ。

 もちろん俺もそうだった。
 
 理緒は皆が化身に仕えたいから神官になると思っているか?」
 
理緒は静かに首を振った。



「そうだ。神官になる者はだいたい3つに分かれている。

 1つは、純粋に化身に仕えたいと願うもの。

 理緒の傍にいる神官だとマーシェだろうな。

 2つめは、貧乏だったから。
 
 これ、俺。俺は闇のせいで親亡くして金無かったから。
 
 そして、3つめは家族と絆を切りたくて神官になるもの。」

 
「家族との絆?」

「ああ。神官になると神殿に籍を置くことになるから

 家族とは縁が切れることになるんだ。
 
 まあ、このケースにもいろいろあって
 
 自分から縁を切るケースと家族に神官を強制される
 
 ケースがある。
 
 心に傷を持っている神官が多いな。」
 
「不思議なんだけど、なんでそんなことになるの?」



「神官は結構危険に晒される時が多い。

 戦地にも出向く神官も多いし病人のそばで祈りをささげるのも
 
 神官だ。武術神官はローレンシャしかいないから
 
 他の国にいる神官達は力が弱いんだ。
 
 だから化身様は我々神官に特別の加護をくださることにしたんだ。」

 
「特別の加護?」

「ああ。まず、神官を殺したり辱めるものに神罰が下るように。

 そして、事故や災害から守られるように。
 
 後は、自分の望む能力が分けられる。」
 
「自分の望む能力?」


「ああ。神学校を卒業し、補佐神官をへて、正式に神官になる時に

 望む能力が与えられる。例えば魔力とか浄化の力とか・・・
 
 俺は魔力だったからな。それで神官達の一番欲する力で多いのが
 
 祈りの力だ。これは自分の祈りが叶えられやすくなるという
 
 力だ。」
 
「叶えられやすく?」

「ああ。つまりこの力を与えられてその神官は毎日の祈りの中で

 自分の家族について祈る。そうするとその祈りは叶いやすくなり
 
 店などやっていると繁盛するというわけだ。」


「でもそれがなんで犠牲に?」

「リオ、それが無償で与えられるわけではない。」

「どういうこと?」

「神官はその力を得るために入学時、もしくは神官の見習いになった時に

 自分の欲求を化身様に返すんだ。」


 
「欲求?」

「ああ。神官は性欲が無いんだ。確かに綺麗だなとか可愛いなあって

 気持ちはあるぞ。だが抱きたいという気持ちにはならない。
 
 体も反応しない。」
 
「えっ?なんで?」
 
「神官になる覚悟ってやつだ。このくらいの覚悟もないようでは

 神官の資格がないということになる。
 
 それに、これは化身様ではなく、初代の最高神官が決めたことなんだ。」
 
「そうなんだ。」



理緒は言葉少なくそう呟いた。

「少なくても俺は神官であることに誇りを持っている。

 俺は誰の犠牲でもない俺の意思で神官になったんだ。」
 
「ありがとう。ギルス。教えてくれて。」

理緒はそう言いながら微笑んだ。その後、少し雑談をして理緒は部屋に戻った。



ギルスは理緒がいなくなると椅子にどっかり座りながら呟いた。

「さすがにリオには言えなかったけど、たぶん神官になる覚悟って

 後からできた話だ。神官が性欲を返すのは、化身様を襲わない為だろう。
 
 デュアスと抱きあっているリオは色気垂れ流しだからなあ。」





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