ルーレンの夜明け

       第72話 大礼拝の後

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「理緒、疲れたろう?休んだ方がよい。」

「何だか、眠いんだ。デュアス。」

理緒が眠たそうな眼でデュアスを見あげた。


「力を使ったからだろう。

 もう着替えたし、後は部屋に戻るだけだから
 
 デュアスに抱かれて休めばいい。」
 
ギルスが横からそう言うとデュアスは頷きながら

理緒を抱きあげて子供のように背中をポンポン叩くと

少したっただけでスースー寝息が聞こえた。


「リオはすごく疲れたようだな。」ギルスが言うとデュアスは

理緒の黒髪を愛しげに撫でながら言った。


「ああ。今持てる力をかなり使ったからな。

 理緒は自分の持てる力が少なくて悔んでいた。」
 
「たくさんの礼拝者が感動するくらい力が

 行きわたっていたのにか?」

「それは、理緒にしたら本当に小さな力なんだ。

 理緒は闇を鎮めたいと思っている。
 
 でも今の力ではこの島を覆う闇までは浄化できない。
 
 それでも少しでも浄化したくて力を送っていた。」


「そうか。この体であの力を出すのは

 体に無理がかかるから気をつけてやってくれ。」
 
「ああ。わかった。」デュアスはそう言いながら理緒の頬を撫でた。

「このまま部屋に連れていくなら髪の色を変えなければ

 ならないな。」
 
ギルスはそう言うと手をかざして理緒の髪の色を変えた。





「リオン・・・おき・・・・ますか?」

遠くで自分を呼んでいる声がする。

理緒はゆっくりと目を開けると心配そうなフランの顔が見えた。

「フ・・・ラ・・?」

声が掠れて思うようにでない。

「ああ。水を飲みましょう。」

フランはそう言うと理緒の背中に枕を入れ

木のカップに水を注ぐと口元に持って来てくれた。


「ありがとう・・・。」

理緒はそのカップを両手で持ちゆっくりと水を飲むと

いくらか気分が落ち着いた。

「無理してはいけませんよ。

 微熱があるようでしたので

 今日はゆっくりとお休みください。

 ちょうど、学校も明後日からですし
 
 買い物も明日で間に合うでしょう。」
 
フランは優しく言いながら理緒に寝台に横に

なるように勧めた。



肩まですっぽり毛布で包まれると

理緒は何だかまた眠くなった。

「しかし、過敏症というのも大変ですね・・・。」

過敏症って何だと思いながらも理緒の意識は眠りへと誘われた。



次に目を覚ました時は昼を過ぎたのかデュアスが枕もとに座って

理緒の手を握っていた。

「デュアス・・・。」

「調子はどうだ?」

「うん?かなり良くなっているよ。ここは精霊の国だけあって

 精霊達も力を貸してくれるんだね。」
 
半分起き上がりながら部屋を見渡すとフランがいない。


理緒の視線を追いかけてデュアスは「祈りの時間だそうだ。」

と教えてくれた。どうやら理緒を気遣って聖堂に行ったらしい。

「少し頑張っちゃったね。」そう呟く理緒の額をデュアスは

優しく撫でながら言った。

「わかっている。お前は俺で、俺はお前だから。」

理緒はデュアスを見あげてにっこり微笑んだ。

デュアスと少し話をしてひと眠りすると

もう日の光が傾いていてフランが消化の良い食べ物を

持って来てくれた。



「肉〜〜。」と言う理緒にフランは

「肉はまだです。お粥を食べなさい。」

フランはそう言いながら小さな椀に粥をよそって

理緒に渡す。



理緒はそれを食べながらポツリと言った。

「何だか、母さんを思い出すなあ。」

「お母様?」

「うん。俺の母さん、料理は壊滅的に駄目だけど

 お粥だけは上手だったんだ。」
 
「そうですか。」

フランは穏やかに微笑みながらいった。

しかし、その笑顔がいつもよりちょっとぎこちなかったように

理緒は感じた。


「母さんとももう会えないんだよな。」

理緒はそうポツリと言って粥を口に運んだ。

「ほら、果物の皮剥いてあげるから食べなさい。」

フランはわざと明るい口調でそう言って、柑橘の皮を剥きはじめた。

その優しさが理緒には少しくすぐったかった。




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