ルーレンの夜明け

       第71話 大礼拝 理緒視点

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理緒はデュアスとギルスの手を借りて礼拝の会場である

中庭を見渡す小部屋にいた。

中庭は、回廊に囲まれた大きなスペースで

真中に大きな舞台があり、その上に小さな舞台がある。

そして、最高神官が立つと言う場所は神殿につけられた

2階部分のバルコニーで理緒は3階部分のバルコニーの横の

小部屋で礼拝を見ることとなる。

初めはちょっと遠いかなと思っていたが

実際椅子に座ってみると

舞台が高めな分、良く見える。



「すごいなあ。」

理緒が言うとギルスが微笑んで言った。

「そりゃ、この大礼拝は化身が喜んでくれるように

 できたものだからな。」

「何それ?」

「詳しくはわからないけれど昔、化身様がかなり心身が弱った時が

 あったそうだ。見かねた騎士達が化身様をローレンシャにお連れしても
 
 病状は良くならない。ローレンシャの神官達はそこで
 
 どうすると化身様が元気になってくれるか考えたそうだ。
 
 その時この小部屋は化身様の寝室だった。
 
 化身様は、今リオが座っている場所に横になり
 
 そして、いつも空や中庭を眺めていたそうだ。
 
 それを知った神官達や学生達は化身様の心を慰めようと
 
 中庭で歌を歌ったり、劇をしたり、武芸を披露したりしたそうだ。
 
 それを見た化身様は皆の心に感激して、裸足でそのバルコニーに
 
 出て、それが生きる気力に繋がったそうだ。
 
 そして、いつしかそれはこの大礼拝という行事に姿を変えた。
 
 前の化身様はこの行事をとても大切にされていたらしい。」
 
「そうなんだ。」理緒は集まってきている人を見ながらそう言った。



しばらくすると中庭中が人で埋まり儀式の準備が終わったようだ。

「化身様、もう少しで大礼拝が始ります。」

ローレンシャの神官がそう言うと理緒の下の階に



最高神官が歩み出てきて話し始めた。

「この大礼拝は歴史に名を残す礼拝となった。

 なぜならば、新しい世界樹の化身様がご光臨なさったからだ。
 
 今、居られる化身様は御隠れになった化身様の御子であらせられる。
 
 そして、とても力が強い為今は神眼でこの大礼拝に参加なさっておられる。
 
 御身を現すのは大礼拝の最後になろうが、皆のことは神眼で見守っていらっしゃるので
 
 その事を心に置き、今日の大礼拝を成功させようぞ。」




「何だかすごい期待されているよね。」理緒は歓声を聞きながらそう言うと

「理緒はいつものままでいい。」とデュアスが言って理緒の頬を愛しげに撫でた。

「こらこら、ここで2人の世界を作るんじゃない。」ギルスが苦笑しながら言った。


理緒とデュアスは不思議そうに顔を見合わせているのは天然ということなのだろう。


「ほら、演目が始まる。」

理緒は、外の舞台を見つめた。

「すごい・・・。本当に俺の為に・・・。」

学校ごとに舞や歌や技巧を凝らしたものを

舞台で披露しているが、それはあきらかに理緒のいるこの位置で

見ることを前提に作られているのだ。



特に舞は、帽子や襟飾りの色が絵画の様に動きとても美しい。

「あっ。フランがいる。」

理緒は興奮したように言うとギルスが

「ほう、ルームメイトは執行役員なんだな?」

理緒が不思議そうな顔をするとギルスが簡単に執行役員の説明をしてくれた。



奉納行事が終わると、舞台の上に出演者達が椅子を持ってきて

こちらに向かって座った。

先ほど姿が見えなかった最高神官が下のバルコニーの前方に進み出て

理緒の方を静かに見つめると、周りに神官達の歌が響いた。



「なんか・・・気持ちいい・・あたたかい気持ちが伝わってくる。」

理緒はそう言いながら、デュアスとギルスに助けてもらいながら

立ちあがり、ゆっくりと歩きはじめる。



バルコニーに出るとそこは思ったより広くて階段をのぼって

皆の前にでれるようになっていた。

理緒は、階段をあがる前に大きく息を吸い込んで

小さく頷くとそこで力を解放して

ゆっくりとあがり始めた。



理緒の力が黄金の光となり、デュアスとギルスの服にも反射して

眩しい光が会場を埋める。



階段をあがりきった理緒が見た風景は皆が椅子を降りて

平伏していく風景だった。

人々は平伏しながらも化身を讃える歌を歌い、祈りの言葉を唱え続けた。



「デュアス。こんなに皆が期待しているのに、

 祝福しかあげられない。
 
 本当はこのローレンシャに続く道の闇をはらいたいけれど
 
 そんな力までないんだ。」


 
理緒はそう言いながらポロリと涙を零した。

「理緒・・・。」

本当は、無理するなという言葉を言いたかったデュアスは

何も言えなくなった。



理緒が力を放出したので、デュアスも理緒とシンクロし

感情が手に取るようにわかるからだ。

2人の紫色の目は穏やかなローレンシャと踊りまわる

精霊達を見つめていた。



そして同時にリタニア王国に通じる海以外の海が

闇に包まれているのも見えた。

理緒の光があたたかく、群衆を照らす。

しかし、その闇は少しだけ色が薄くなる以外は何も

変わった様子がない。

「早く、綺麗な海を取り戻したい。」

理緒はそれを見てポツリと呟いた。



「リオ、あんまり力を使いすぎると駄目だ。」

ギルスに声を掛けられ理緒は我に返る。

そのまま後ろに下がり、階段を降りながら

力の放出をやめると、反動がきたのか

足元がふらついた理緒を後ろからデュアスが抱きとめた。



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