ルーレンの夜明け

       第70話 大礼拝 フラン視点

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「フラン、おはよう。」

「おはようございます。」


フランは2年間通っている神学校の磨き上げられた廊下を優雅に歩いていた。

今日は午前中大礼拝の準備があり、午後からは大礼拝がある。

新入生と違いフラン達在校生は、いつもと変わらない生活を送っている。

ただし、年数回ある大礼拝は神官にとって重要な行事なので何かと

準備が必要なのだ。


フランは、「中等科執行会」というドアを開けて「おはようございます。」

と挨拶しながら部屋の中に入った。

中には、4人の男女がいてフランが一番年下だ。

「フラン書記官、同室者はいかがでしたか?」

その中で一番穏やかそうな青年が口を開いた。


「ありがたいことに、私は良い方と同室になれました。

 その方は自分の事は自分でなさります。まあ、神学は知らないようなので
 
 今朝の祈りの時間フラフラ散歩に出かけた以外は取り立てて・・・。
 
 マテア会長、例年と同じようにもう問題があるのですか?」
 
「ああ、すでに朝から数件の苦情がリデア副会長の元に入ってきています。」

机に向かっていた金髪の女がフランの方を振り向きながら言った。

「女子寮の方で5件、男子寮の方で7件の苦情が来ています。

 朝から面談をしましたが、全て各国の貴族の子息が同室で
 
 神官を召使のように扱っているようです。
 
 寮監の神官には報告しましたが、難しい問題ね。」
 
リデアがため息をつきながら言うと蒼い髪の男女が口を開いた。


「俺の方は、初等科神学校の教授の方に話を通してきた。」

「私の方は各種学校の教授に話を通すのでフランも手伝ってください。」

「わかりました。ラド。キリ、一緒に参りましょう。

 ついでに各種学校の教授に本日の大礼拝の変更点を確認してきましょうか?」
 
「そうしてくれると助かる。初等科主席卒業の頭は伊達じゃないね。

 何しろ、化身様が光臨あそばしたのだからね。
 
 私は神学校の執行連盟の方へ行き、指示を仰いでくるよ。
 
 今朝は忙しくなるね。」会長はそう行って手を挙げると部屋を後にした。

 
執行部。それは各校それぞれにあり、運営を任されている部署である。
 
特に神学校の執行部は神殿と直結しているでこのような大礼拝などの行事
 
の時は忙しい。しかし、執行部の役員になるということは将来を約束された
 
ようなものなので、全生徒の憧れである。


 
フランは初等科を優秀な成績で修了したので執行部の書記官として
 
働いているのだ。
 

 
午前中、準備が終わり執行部の証である、紅い襟飾りのついた
 
神官服に着替えたフランは他の役員と同様に中庭の中央に設けられた
 
舞台の横で控えていた。


 
舞台の下では、各種学校の生徒や神官達が席に座っている。
 
新入生の方を見たがちまっこい理緒の姿が見えない。
 
「本当にあの子は・・・。どこへ行ってしまったのでしょうか?」

フランはため息混じりにそう呟いた。



そうしている内に、自分のいる舞台の1段上になっている舞台に

神官の中でも上位の神官達が集まった。

他の神官たちは、中庭を囲むようにして建っている回廊の中に座っている。

大礼拝の合図である四方の鐘が鳴るとフランのいる舞台の2段上の舞台に

最高神官が現れた。



皆が礼をすると最高神官が口を開いた。

「この大礼拝は歴史に名を残す礼拝となった。

 なぜならば、新しい世界樹の化身様がご光臨なさったからだ。
 
 今、居られる化身様は御隠れになった化身様の御子であらせられる。
 
 そして、とても力が強い為今は神眼でこの大礼拝に参加なさっておられる。
 
 御身を現すのは大礼拝の最後になろうが、皆のことは神眼で見守っていらっしゃるので
 
 その事を心に置き、今日の大礼拝を成功させようぞ。」
 
その言葉に会場から拍手が沸き、神官達が聖歌を歌いはじめた。



フランは、神官の舞で使う神具をぎゅっと握りしめて深く息を吸い込んだ。

その後、各種学校の奉納行事が続き最後に神学校中等科・高等科合同の

神官の舞の披露になった。

儀式神官と呼ばれる神官達が楽器を演奏し始めると

神官達が歌を歌い始める。



フランは、他の役員と共に舞台に進み出て何度も練習したように

舞い始めた。

どうにか役目を果たし、舞台の袖に戻ると椅子を持って舞台に戻り

他の執行部の役員達と同様に整列して椅子に座った。

最高神官が祈りの言葉を唱えると、フランも同様に祈り始める。

そして、祈りの言葉が一体化した時に、全てが一瞬輝いて見え

その光が最高神官のいる奥の方に集まった。

それと同時にまばゆい光が中庭を覆った。



これが化身様なのだ・・・。

フランは椅子から慌てて立ち上がり床に手をつくと

そのまま平伏した。

そうしなければ眩しくてとても前を見ることができなかったからだ。

それと同時に自然と目に涙が浮かんだ。

化身様から発せられる光はあたたかく、そして何だか懐かしかった。





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