ルーレンの夜明け

       第7話 リオ・リオ・エルバランヌ

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理緒は、世界樹の枝の上でゆっくりと伸びをした。

黒い髪をバンダナで覆いこの世界の男が着る

薄茶色の麻の服を着ている。



その下は今日は寒かったので黒のロンTを着ていた。

「何だか、ここにいると落ち着くんだよなあ。」

理緒はそう言いながら、自分で作った単語帳を

ペラペラめくる。



『リオーー』

理緒を探すアリの声が聞こえる。

『アリーー。ここいる。』

理緒は枝から身軽に下に降りると手を振った。

『リオー。カナウおばあさん、起きて来ないって。

 おじいちゃん、リオに来て欲しいって。」


『わかった。いく。カバンは?』

『ここにあるよ。』アリはそう言うと

布で作ったカバンをもちあげた。



そこには、様々な薬草で作られた薬が入っているのだ。

理緒はアリの後を追いかけて丘を駆け下りた。




理緒がこちらの世界へ来て1月が過ぎた。

小さな時から、父親に色々な国を引っ張りまわされ

医療行為を行ってきた理緒がこの国の言葉を

理解するのはそんなに苦ではなかった。



今は、片言だが言葉も話すことができる。

この島には、60代以上の年寄りが多数で

若い人がほとんどいない。


特に子供はアリ1人で、その上になると

20代の夫婦1組、40代の夫婦2組のみである。


まして医者もいるわけはないので、

理緒は言葉が通じない中でも、来て1週間くらいには

今までの経験を活かして薬草を煎じて飲ませたり

簡単な医療行為をしていた。



カナウおばあさんは、ここの所ずっと寝たきりで

近所の者が代わる代わる様子を見ているようであった。


理緒とアリはおばあさんの家に行くと、

部屋の中には数人の村人とゼストがいた。


ゼストは、理緒をおばあさんの枕元に呼んで、

『カナウ、実はリオは化身様なんだ。』と言って

理緒のバンダナをそっと取った。


おばあさんは、ようやく目を開けて小さく呟くように言った。

『リオ・リオ・エルバランヌ』

ゼストは、呆然としている理緒に声をかけた。

『リオ。エル。(許す。)と言って下さい。』

理緒は震える声で言った。

『エル。(許す。)』

するとカナウおばあさんは、嬉しそうに微笑んで目を閉じた。



それと同時に淡い光に包まれ空気に溶けて行った。

後には何も残らない。

理緒にはその淡い光が自分に向って来て、体が温かくなり

眩暈がして気が遠くなりそうになったが、そこは強靭な精神力で堪えた。

皆が理緒の姿を見て興奮したように何かを言ったが

ゼストが理緒を気遣ってアリと家に帰れるようにしてくれた。



『リオ?大丈夫?』アリは心配そうに聞いて、

家に戻ると、普段はあまり飲まないお茶を理緒に淹れてくれた。



『アリ。意味、知りたい。』

『何の意味?』

『リオ・リオ・エルバランヌ』

アリはすごく困った顔をした。


『僕は、死ぬときに言う言葉ってしか知らないんだ。

 単語の意味は、永遠にさようなら。永遠にさようなら。

 貴方の中で休ませてください。と言う意味なんだ。』


「うそっ!」理緒はそう思わず日本語で言った。

・・・親父・・リオは俺の名前で無かったぞ・・・

じゃあ、この世界で俺の名って永遠にさよならって意味?

そりゃ初めてあった時、アリとゼストが驚いた顔するわけだ。・・・



『でもカナウおばあさん、幸せだね。

 世界樹に取り込まれて魂に返るんだ。』

そう言いながらアリはニコニコ微笑んだ。



・・・あの不思議な光は・・俺のせい?

俺って何?・・・・

理緒の頭の中は色々な考えが渦巻いていて

ぐちゃぐちゃだ。



その時、ゼストが部屋に入って来た。

『どうした?リオ?』

ゼストが理緒の顔色を見て言った。

『ゼスト?私、化け物?』

理緒は思わずゼストの服を掴んで泣きそうな顔で言った。





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