ルーレンの夜明け

       第6話 父の手紙

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それから理緒は手紙が入っているのに気がつき

封筒を開いて厚い便箋を開いた。

そこには几帳面な父の字が書かれていた。


『理緒へ

この手紙を理緒が見ていると言うことは、君のそばに僕らがいないのだろうね。

私としては、そんな日が来て欲しいとは思わないが何でも念の為だ。

出来ることなら、私が死んだ時にこの荷物を開いて、

「父さん冗談はやめろよ。」と言って欲しいものだが・・・。


理緒に話さなくてはいけないことがある。

私は君も知るとおり、医師で現実主義の人間だ。

だから、非現実的な話は昔から興味も無い。

しかし、世の中には非現実的な出来事が確かにあるのだ。



理緒、君は私達と血が繋がっていない。

我々夫婦には事情があって人工授精でなければ子供ができない。

そして、授精してもその卵が子供になることは

とても難しいことなんだ。


そんなある日、当時一軒家を借りていたのだが、

その庭の木の下が急に光り、君を抱えた水色の髪の男が

現れた。その男は、泣いている君を大事そうに抱いて、

「リオ・リオ・エルバランヌ・オリゾン。」と言った。



私も数ヶ国語は話せるがどんなに調べてもその言葉の意味は

今でもわからない。

そう言うと男は、庭に出てきた私に君を差し出して、

私が抱きあげると、消えた。



本当に煙のように消えたのだ。

だから、私達は君を自分の子供として育てようと

決心した。たまたま私が医者だったから

いろいろと都合して、君の誕生を役所に届出たのだ。


そして、あの時、男が数回繰り返した言葉

リオが君の名前ではないのかと思い、

君を理緒と名付けて育てた。

君の左の腰には不思議な刺青のような模様があるだろう?


今までは、それを君が小さな時、少数民族の村で

気にいった模様があったから彫ってもらったとごまかしていたが、

実は、私が君を抱いたときに既にその模様は小さな理緒に

刻まれてあった。


色々と調査したが、地球にはない物質で刻まれたものらしい。

(知り合いのNASAの職員に協力してもらったから間違いない。)

私達は、理緒を育てながら考えたんだ。


どんな理由であれ、親が子供を手離すのは、子供に危険が迫ったからではないかと。

そう考え、理緒が私達の手の届かない所に行くなら

理緒にはちゃんと生き抜いて欲しいと思った。


だから、無茶だとわかっていたが、軍隊に入れる事で

自分の身を守ることを覚えさせたかったし、医師の技術を教えることで

どこに行っても食いっぱぐれることはないと思った。


母さんは母さんで、その男の仕草が妙に上品だったから

理緒もそれなりに育てたいと考えていたようだ。

理緒には本来友達と過ごす大切な期間をそういう理由で

世界中を連れまわしてすまないと思っている。


もし、理緒が平和な場所にいるのなら、そんな私達の

老婆心を笑い飛ばして欲しいと思う。


そして、世界中回って地球では一番換金性の高いものは

金だと私は思っている。このリュックは二重底になっていて

そこに金を数個入れておいた。

理緒の役に立ててほしい。



理緒、ありがとうと言わせてくれ。

理緒が息子でとても幸せだ。

そして、どこにいても私は(いや、母さんも)

君の幸せを願っている。


幸せになるんだよ。理緒。

そして、そちらが嫌になったら、何とかこちらに

帰る方法を探して戻っておいで。


私達のそばにいつでも理緒の帰る場所がある。

それを忘れないでほしい。」


「父さん、そんなのずるいよ。

 俺こそ、ありがとうと言いたいのに・・・。

 言えない・・・じゃ・・・ない・・・・か。

 父さん・・・かあ・・・さん・・・。」

理緒は枕に顔をつけてボロボロ泣き出した。





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