ルーレンの夜明け

       第5話 父と母からの贈り物

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少年は、理緒に身ぶりで一緒についてきてほしいと

伝えてきたので、理緒はポケットに母が握らせてくれた小さな袋を突っ込み、

少年についていくことにした。


少年は、林檎を籠にいれると理緒の前に立って理緒を案内して丘を降りていく。

丘を降りていくと、石で作った小さな家が建っていた。

少年は玄関の外に林檎の籠を置くと

木でできた扉を押さえて理緒に入るように身ぶりで言った。


理緒はにっこりと微笑んで見せて家の中に入った。

そこは、狭いながらも清潔に作られている居間のようで、

少年は椅子に理緒を座らせると奥にある部屋の戸を開けて

誰かを呼んでいるようだ。



「まあ、敵意は無いようだから大丈夫だろう。」

理緒はそう独り言を言ってリュックをおろして足元に置き座って、窓から外を見た。

ここは少し小高い坂の上にあるらしく

窓の下には数軒の石造りの家が見えた。



部屋の中に暖炉があるという事は、電気や水道などはないまでもここで煮炊きは

できるようだ。

その時、ガタガタと人の歩く音が聞こえて年老いた男が部屋に入って来て

理緒の姿を見ると目を見開いて少年と同じように膝を折って土下座をした。



「俺は、そんな敬うような人じゃないぞ。」

理緒はそう言うと、椅子から立ってそのおじいさんの傍に行って

そのおじいさんの両肩を起こして、椅子を指差して座るように促し、

少年にもそうした。



それから数時間で身ぶり手振りでどうにかわかったのは、少年がアリ、

そのおじいさんがゼストという名前だと言う事だった。

ただ、理緒が自分の名前を言うとアリもゼストも何とも微妙な顔をしたのが

少し心に残った。



この世界には、太陽が無いようで薄明るかった外が闇に覆われると

ゼストが暖炉に火を入れ、蝋燭に火を灯した。


アリは、素朴なパンとスープを作り、それと新鮮な果物が

この世界での初めての食事になった。

考えてみたら、夕食後にこちらの世界に飛ばされて結構時間がたっているので

理緒はありがたく食事を戴くことにした。

具沢山の野菜のスープは塩味が効いていてとても美味しかった。




食事が終わるとアリが清潔ながらも小さな部屋に案内してくれた。

そこには、毛布が掛かったベッドと木の椅子と机が置かれていた。

理緒はアリに身ぶりでお礼を言うと、アリはにっこりと微笑んで

燭台をテーブルに置いて部屋を出て行った。



理緒は、父親が持たせてくれたリュックをどさりと下に置いた。

リュックは大きく、外国の部隊で訓練したときに使ったものと同じである。



「何を入れたんだか・・・。」

理緒はリュックを広げてみると、部隊で使っていた戦闘服から防寒ジャケット、キャップ等

着替え、そして缶詰などの食料や最低限の生活必需品やアウトドア用品、

本格的な救急キット

(これは父の手作りなのだろう。

 1つは主な医薬品と医療道具のセット。もう一つは薬草を干したもの。)

が入っていた。


そして、その下のものを覗き込んだ理緒の顔は強張った。

「父さん・・・銃刀法違反じゃないか。」

そこには拳銃2丁と分解されたライフル銃と銃剣、

そしてその隣に入っていた

頑丈なケースにはそれらの弾薬や手榴弾、発炎筒まで入っていたのだ。



対して、リュックの外のポケットには理緒が好きな

菓子がぎっちりと入っていた。

「これは母さんが詰めたのかな?」

理緒はいつも愛用しているのど飴を1個口に入れて呟いて


思い出したように母親が咄嗟に持たせてくれた袋をポケットからひっぱり出した。

理緒はその袋を手のひらに開けて思わず息を止めた。

袋からは、父が母の誕生日に毎年贈りつづけていた宝石を初めとした

貴金属がほとんど全部入っていたのだった。

理緒は呆然としたようにその宝石を眺め呟いた。


「母さん・・これは・・何で?何でだよ?」




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