ルーレンの夜明け

       第4話 目覚め

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ポツリ・・・

ポツリ・・・・

理緒の頬に透明な雫が落ちる。

理緒は目を覚ました。



「ここは・・・?」

理緒は大きな木の下にいた。

近くには泉があり、滾々と水が湧いている。



そして見たことのない極彩色の小鳥が

理緒の周りを飛んでいる。

「どこだ・・・?」

目の前にウサギのような水色の小動物がとまり、

理緒の匂いを嗅ぐ。



「可愛いな・・・。」

理緒がそう言うとウサギは嬉しそうに理緒に鼻をすりよせた。

その時、ボタボタボタと物を落とす音が聞こえた。

見ると亜麻色の髪をした少年が理緒を凝視して頭の上にあげた

籠を落としたようだ。



理緒はそのまま立ちあがると、笑顔を作って少年の方に進んだ。

すると少年は「・・・・・・・・・」と膝を折って土下座をした。

理緒は、困ったように肩をすくめて少年の肩に手を置いた。




<少年(アリ)サイド>

「アリ、丘から果物を獲ってきておくれ。」

年老いたおじいさんがそう言った。


「わかった。林檎をとって、世界樹に祈りを捧げて戻るよ。」

アリはそう言うと家を出た。

この島はとても小さな島で、島民も多くはない。

若い人は皆都会へ行き、島民は年寄りが多い。

アリのおじいさんは、島の森の大きな樹を世界樹だと言って

大切に世話をしている。


世界樹と言うのは、この世界の礎と言われる存在で

その化身は黒髪、黒い眼であるとされ、生き神として崇められていた。

何でも、おじいさんが若い時、世界樹の化身が現れて

おじいさんに小さな若木を渡し、

「これが、次代の世界樹になる。大切に育ててくれ。」

と言って消えたそうだ。



その後、この小さな島にも世界樹の化身が殺されそして、樹が枯れたという噂が届いた。

アリは知らないがこの小さな島には太陽のなごりの薄日が差し

以前とあまり変らないが、世界の大部分は闇に覆われて、

都会と言えども治安が悪く住みにくい。


そして、一度島を捨て、都会へ出たものはこの島に戻ることはできない。

この島は、出て行くことはできるが、戻ってくることができない島だからだ。


アリの両親も幼くて病弱だったアリだけを島に残し、

他の兄弟を連れて都会に出て行った。


アリは、おじいさんと一緒に小さな時から世界樹の世話をしていた。

島の人は世界樹のことをおじいさんの狂言だと陰口をいっているが

アリはおじいさんの護っている木が世界樹だと信じていた。


世界樹はその日によって感情を持つようで、元気になったり、しょげたように萎れたり、

毎日何かの変化があった。両親がいない分、アリは世界樹にいつも祈りというより

話しかけながら、世界樹の世話をするのが習慣になっていた。



そんなアリの話を世界樹は聞いて暖かく包み込んでくれるような気がして、

アリにとって世界樹は樹なのに家族のような気がしていた。

アリは丘の中腹の林檎の木で林檎を数個籠につめると、

籠を頭の上に乗せ、丘を登り、丘の上の世界樹を目指した。


途中でアリは驚いたように丘の上を見つめ足を早めた。

昨日までは、丘の上に一本だけあった樹の周りをうっそうと茂みが生えている。

そして、他の樹より小さかった世界樹が大きな樹になっていた。

アリは急ぎ足で茂みを越えると、水の音が聞こえた。



見ると、泉が湧いている。

この島に水は無いから雨水を溜めて飲んでいたのだ。

そして世界樹の下に人影があった、その人は兎を撫でていた。



その人の真っ黒な髪の毛を見てアリは籠を落としてしまった。

その人は、アリの方を見て黒い目を見開いた後、

とても優しい微笑を浮かべてアリの方に近寄ってきた。

何て気高くて美しい人なのだろう。

アリは、そう思いながら膝を折って地面に平伏し、


「世界樹の化身様。どうかこの地に祝福を。」

と言った。

するとその人は自分の両肩に手を置き、

首を振りながらそっとアリの身を起こして困ったように小さく微笑んだ。




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