ルーレンの夜明け

       第66話 化身の部屋

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次の日の朝、やはり理緒は暗いうちに目が覚め、

日課である鍛錬をはじめた。

入念なストレッチから入り、いつものように

じっくり体を作り上げる。

ストレッチが終わると武道の型の練習をする。

「本当は、デュアスと打ちあいたかったんだけどな。」

理緒はそう言いながら淡々と体を動かした。



「な・・・何をしているのですか?」

明け方になって目を覚ましたフランは床で指1本で全身を支えている

理緒に向かって驚いたように言った。

「おはよう。フラン。」

理緒はそのままの状態でのんびりと答える。

「目のやり場に困りますから何か着てください。

 それから、洗面所案内します。その後私は祈りの時間です。」

フランはそう言うと着替えをはじめた。



理緒も頷いて乾いた布で汗をぬぐって着替えると、

激しくグーッとおなかが鳴った。

「あ〜〜〜。昨日の夜食べ損ねたからだ。」

理緒がそう言って腹を押さえるとフランがプッと笑い

棚から、菓子を出して理緒に差し出した。

「フラン。食べていいの?」

「本当は、祈りの前に物を食べるのは行儀が悪いですが

 仕方ありませんね。」

フランはそう言いながら、木のカップに冷たい茶を入れて

テーブルに置いた。



理緒がありがたくそれを食べると洗面所や共有スペースの

案内をして貰った。

各階には洗面所と火の魔術を使ったコンロがついている。

ここで水を沸かすことができるらしい。

洗面所の横はトイレでその奥に洗濯場と物干場があった。

一通り案内され、顔を洗うと、2人は部屋に戻った。




フランが朝の祈りを始めると緋聖の声が聞こえた。

・・・以前の化身様が居られた部屋に行きませんか?・・・

・・・部屋?・・・

・・・ええ。この部屋には祈りの時が終わってから戻って来ると

   良いでしょう・・・

・・・わかった・・・



理緒はそう言いながら自分の寝台の傍に移動してフランから見えない場所に立った。

その瞬間理緒の体は光に包まれて消えた。

理緒が目を開くとそこは小さな部屋だった。

理緒の頭の上にいた紫苑は小さく飛び立ち部屋の真ん中にある椅子の横にある

止まり木にちょこんと乗った。



理緒が椅子に座ると椅子の下からオレンジ色の光が体に入り込んでくる

その光はとてもあたたかく心地よい。

・・・・化身様・・・ありがとう・・・

そんな声が響いてくる。

「何だか、とてもあたたかくて気持ちが良いよ。」

・・・・これは、あなたに対する感謝の気持ちです。・・・

・・・俺に対する?・・・

・・・ええ。そうです。・・・

・・・何か、力があふれてくる。・・・

・・・ええ。だからこの部屋では・・・



急に目の前が明るい光に包まれて目の前に

緋聖が人型で現れた。

「そうやって人型を取れるんだ。

 でも昨日は一瞬だったよね?」


「まあ、今はあなたを通して力を戴いていますからね。」

緋聖は微笑みながら言うと、赤い光を残して消えた。

・・・すごいな。緋聖・・・

・・・これは、皆の祈りの力なのです。

   それでは、化身様のお恵みを皆様に。・・・




ここに来るのは初めてだったのに

理緒は自分の言うべき言葉を知っていた。

「ローレンシャに祝福を。

 我が魂の子達に光を。

 我が友精霊達に力を。」

理緒がそう言うと一斉にローレンシャの鐘が鳴り始めた。


・・・お疲れさまでした。部屋の前の通路に転移します。・・・

緋聖の声が頭に響くと次の瞬間部屋の扉の前に立っていた。




そっと扉を開けて入った理緒にフランが振り向いて言った。

「祈りの時間になぜフラフラ外を歩いてるのですか?」

フランの口調にたじたじとなる理緒であった。




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