ルーレンの夜明け

       第65話 心配する人

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・・・理緒、大丈夫か?・・・

理緒の頭の中にデュアスの声がした。

どうやら、理緒が泣いているのに気づいたらしい。

・・・大丈夫。ただ、初めて見たから・・・

・・・見た?何を?・・・

・・・俺を産んだ人・・・

・・・やっぱり行く・・・



デュアスの声が途切れて、少しすると

・・・シャーン・・・と入口で音がして

「失礼する。」とデュアスの声が聞こえた。



「デュアス・ディ・ヴァラン?」フランは驚いたように

そう呟いた。

「デュアス・・・。」理緒が驚いて目を見開くと

デュアスは優しく微笑んで言った。



「ほら、絵を飾り棚に戻してこちらにおいで。

 神官は、口が堅いから我々のことを口外なんてしないはずだ。

 そうだろう?」

フランは「もちろんです。お湯を貰ってきてお茶を淹れ直しますね。」

そう言って、水差しを持って部屋を出て行った。

どうやら気を使ってくれたらしい。



デュアスは椅子に座ってポンポンと自分の膝を叩くと

理緒は子供のようにデュアスの膝に乗ってギュッと抱きついた。

それだけで、デュアスは会っていない数日理緒がどのように過ごしてきたか、

理緒もデュアスがどのように過ごしてきたか映像が頭に流れる。



「精神的にここにいるのは疲れるか?」デュアスはそう言って理緒の背中を撫でる。

「挨拶が化身様と共に・・って微妙だよね。」

「まあ、そうだろうな。試験も大変だったな。

 料理の名を教えなくてすまない。」

「ううん。確かに少し疲れたよ。」

理緒があくびをしながら言った。



「寝台に横になった方が良い。

 紫苑も緋聖も力をわけてくれる。

 もちろん、俺も・・・。」

そう言いながらデュアスは理緒を横抱きにすると

寝台に運び、毛布を掛けて手を握ると理緒は安心したように眼を閉じ

小さな寝息をたてはじめた。



すると紫苑から銀色の光があふれ理緒を包みこみ

理緒の体の中に入った緋聖からも紅い光があふれる。

そして、デュアスも握っている手から力を理緒に送った。

デュアスの手が淡い紫色に光っている。



その時、フランが戻ってきた。

フランは、驚いたように理緒の方を見たが

何も聞かずにお茶の準備をはじめた。

その様子を見たデュアスは理緒の額にキスを落とすと

立ちあがり、フランの前に座った。



「失礼。私の主は、本調子じゃない上に試験を受けていたので

 疲れたようです。」

「あなたは、騎士なのですね。」

「ええ。」

実はルーレンで騎士の契約をすることは少ない。

騎士として1人の主人に尽くすよりも傭兵や各国の軍隊に

所属して力をつけていく方が安定しているからだ。



しかも、デュアス・ディ・ヴァランと言えば

剣の達人として有名であり、超難関の上級学校を修了すると

各国の武術学校から引く手は数多であるはずだ。



「勿体ない・・・。」思わずフランがそう呟くとデュアスは

微笑みながら言った。

「武人にとって、自分の一生を掛けても良いと思える

 方に出会えることほど、幸運な事はないと思います。

 多少世間知らずのところはありますが、

 主のことをよろしくお願いします。」

デュアスはそう言ってお茶の礼を言うと部屋を後にした。



フランは、ティセットを片づけると

テーブルを布巾で拭いて、

理緒の寝台の方を見た。

魔力があまり無いフランにも理緒の周りが

薄明るく光っているのが見える。

「魔力のある方なのですね。

 これでは、今夜は食堂には案内できませんね。」



フランはそう言うと、部屋を出て行った。

誰もいない寝室の扉が開くと神官服を着た

ギルスが入って来た。



ギルスは、理緒が寝ているのを見ると

「明日から頑張れよ。」と声を掛けて理緒の頭を撫でると

そのまま部屋を後にしながら言った。


「今夜は精霊が歌うな・・・。」

魔力があるギルスには精霊達が嬉しそうに奏でる美しい歌が

聞こえてきた。



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