ルーレンの夜明け

       第64話 聖画

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「よし。精霊との相性も良いようだな。」

アジルは満足そうに言って、箱をしまった。

「そのイヤーカフスは、この寮の鍵にもなるし

 各学校の鍵でもあるからはずさないようにな。

 リオンの部屋は563号室。同室者は他の寮生同様

 神学生だ。」

「神学生・ですか?」

「ああ。神学生と共に生活することで

 生活の乱れを正すことができるからな。」

アジルはそう言うと手を差し出していった。


「歓迎するよ。リオン。化身様がいつもともに。」

「アジルも・・・。」

理緒はその挨拶に狼狽しながら答えた。


「リオン、後は精霊が案内してくれるはずだ。」

「はい。お世話になりました。」

「何、私はいつもこの寮にいるから何かあったら訪ねてくれ。」

アジルはそう言いながら微笑んだ。


理緒は「ありがとうございました。」と言って礼を言うと

赤い光に包まれて目の前から消える。

アジルは理緒が消えた所を茫然と見て言った。

「よっぽど強い精霊だな。生徒を瞬間移動させる精霊なんて初めて見た。

 あのリオンという生徒は驚きの塊だな。」




理緒は目を開けると563号室と書いてある扉の前に立っていた。

頭の中で緋聖の声がした。

・・・今日はお疲れのようなので、瞬間移動しました。・・・

・・・ありがとう・・・

・・・そのまま扉を開けると開きますよ。・・・

理緒はその言葉に従って白い扉を開けると

〜〜〜シャラ〜ンシャラ〜ンジャジャジャジャジャ〜ン〜〜

と大きな鐘のような音がした。



「うわっ。なんだ?この音は?」

理緒が素で驚くと中からグレーの神官の服を着た青年が

驚いた顔で出て来た。

「あなたが私の同室者ですか?

 どうか、お入りください。」

その青年は落ち着いた口調で理緒を中に招き入れた。



入ると、そこは、居間のような空間で

奥の方を見ると真ん中で収納で区切られ

右と左に机と寝台が並んでいた。

左側の机が本が綺麗に並んでいる様子なので、右側を理緒が使うことになるらしい。



「ああ、右側のベッドと机を使ってくださいね。

 そして、こちらが共有スペースになります。

 お茶をいかがですか?」

理緒ははっと我に返り青年に手を差し出して言った。

「俺はリオンと言います。よろしくお願いします。」

青年は不思議そうに理緒の顔と手を見ていたが

にこっと微笑んで、手を握った。

「私は、フランと申します。

 神学校の中等科に通っております。」

「中等科?」

「ええ。まあ、お座りくださいね。

 神学校の初等科は一般生と神学生が世界樹の基本や

 生活をしていく上で必要な礼儀や学力を養うものです。

 そして、神学生だけが進むのが中等科、

 寮の2人部屋は中等科の神学生と一般生がペアなんです。」

「そうなのですか?」

「ええ。神学生は神官を目指すので、規則正しい生活を送っております。

 そして、一般生より長くローレンシャで学んでいるので

 一般生がローレンシャでより良い生活をする手助けをします。」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」理緒はにっこり微笑んで言うと

フランは照れたように頬を染めた。



「この、共有部分は自由にお使い下さい。

 ただし、朝と夕方私は、祭壇の前で祈りを捧げます。」

「祭壇?」

理緒は、フランの目線をたどると、小さな飾棚に

小さな絵が置かれているのを見た。

理緒は立ち上がってその絵を飾り棚からおろすと

じっと絵を見つめた。



「これは・・・。」

その絵には黒い髪で黒い眼の少年のような人が

微笑んでいた。その肩には小型のマイラが

とまり、足元には黒い犬のような生き物が

少年を見あげていた。

それは紛れもなく前の化身の姿であろう。



理緒は知らず知らずの内に

その少年を指で撫でた。

フランは理緒の行動に驚いて立ちあがった。

理緒が持っている絵は聖画と言って

神体として崇めるべきもので取り出すことなんて

してはいけないからだ。



しかし、理緒の横顔を見てフランは何も言えなくなった。

理緒の頬には涙の雫がつたい、せつなく悲しそうな顔をしていた。



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