ルーレンの夜明け

       第63話 精霊

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武術学校のコテージで着替えをすませると

理緒は肩に紫苑をとまらせて、神官と共にコテージを後にした。

神官は小さな門を抜けて言った。


「おめでとうございます。リオン。

 ローレンシャへようこそ。」

目の前には高い石造りの城のような建物が見えた。

その時、「リオ・・・。」「理緒・・・。」と声がした。

「ギルス・デュアス。」

理緒は嬉しそうに2人に駆け寄った。


「よく、頑張ったな。」ギルスは理緒の頭をグシャグシャ撫でて言った。

「理緒。おめでとう。」デュアスはそう言いながら理緒の頬にキスをした。

「ありがとう。」理緒は2人を見あげて言った。

何だか、2人を見るとほっとしたのだ。


「ギルス大神官。デュアス・ディ・ヴァラン。」理緒を案内した神官が驚いたように言い

ギルスに神官の礼をした。ギルスもそれに礼を返して理緒に言った。

「入寮前に、理緒に会っておきたかったんだ。

 また会おう。」

デュアスは理緒の手にキスをしながら言った。


「理緒。幸運を。俺はあなたのもの。」

2人はそう言うと、理緒の頭を撫でて、回廊のような通路を出て行った。


神官は、ここで咳払いをすると

「それでは、寮に案内致します。」と城のような建物に入って行った。

「ここは、寮と神学校が一体になった場所です。

 神学校は真ん中の建物、その右と左が寮です。」

「右と左?」

「ええ。東の寮が日の出寮、西の寮が夕日寮と言います。

 日の出寮は、元々ローレンシャの人間、化身様を奉る国の寮で

 夕日寮はそれ以外の寮です。リオンは日の出寮ですね。」

神官はそう言いながら、東の寮の入口に理緒を案内した。

そこには武術神官が2人立っていた。



「さて、私の案内はこれまでです。このまま入口から入り

 右側にこの寮の管理をする神官の部屋があります。

 そこに言ってこれからの事を聞いてください。

 リオン。化身様はいつもあなたとともに。」

どうやらこの挨拶は神官の挨拶らしいが、理緒には微妙な挨拶である。

「あの・・・ありがとうございます。」

理緒がそう言うと神官は頷いて踵を返した。



理緒は、武術神官に挨拶をすると寮の入口から中に入った。

そこは寮の割には狭い通路で右側にガラス戸があった。

理緒の姿を見て、そのガラス戸が開いて背の高い神官が出てきた言った。

「新入生のリオンか?ちょっとこちらの部屋に入れ。」

 神官が管理室の横の小部屋の扉を開けた。

「はい。よろしくお願いします。」

理緒はそう言いながら部屋に入り勧められた椅子に腰を降ろした。


「すごく礼儀正しいな。私はアジル。この寮の管理神官の長だ。

 朝から、試験大変だったな。それにしても、もう夕食の時間だ。

 遅かったな。何校の試験受けたんだ?」

「全部?」

「ああ。噂は本当だったんだ。すごいな。

 まず、ここの寮生の印として魔術具を渡したいのだが、

 どれが良い?」

アジルは、箱を取り出して言った。


その箱にはチョーカー・ネックレス・ブレスレッド・イヤリング・ピアス・イヤーカフスなどの

アクセサリーが入っていた。

「うーーん・・・あまり邪魔にならないと言ったらどれでしょうか?」

「そうだな。ピアス、イヤーカフスかな?いちおう身につけたら落ちない魔法が掛っているが・・・。」

「じゃあ、イヤーカフスにします。」

「よし。それじゃ、それに情報を登録する。」

アジルは小さな箱を取り出すとその中にイヤーカフスを入れた。

その箱の上には小さな宝石のような石が埋まっている。


「じゃあ、箱の横の手形に手をあわせて。」

理緒が手をあわせると、箱の上の宝石が全部光った。

「これは、すごいな・・・。私も初めて見た。」

アジルは微笑みながら言う。

「この宝石は何ですか?」


「ああ。この宝石は、入室できる公共スペースを意味している。

 例えば、厨房は調理学校に専攻が持つ者は入れるがその他は入れない。

 全ての学校に専攻を持つことになったのは本当なのだな。

 それでは、ローレンシャで、君の相棒になってくれる精霊を呼ぼう。

 箱を開けるよ。」

そう言いながら箱を開けると、ぶわっと虹色のオーラが溢れ

その光に肩にのった紫苑が警戒して起きあがった。

虹色のオーラは一瞬で消え、理緒の前に恭しく膝を折って挨拶する精霊に変わる。

「大精霊・・・。」アジスが驚いたように言った。


理緒はいつもと同じように精霊に話しかけた。

・・・こんにちは・・俺はリオ、よろしくね。・・・

大精霊は顔をあげて言った。

・・・ずっとお待ち申し上げておりました。・・・

・・・名前は?・・・

・・・私の名はリオ様がつけてください。・・・

・・・俺が・・・

・・・ええ、あなたが名づけることで私はあなたの為だけの精霊になります。・・・

・・・俺だけの・・・

・・・ええ。ずっとあなたをお待ち申しあげておりました。・・・

そう見あげる精霊は人型を取っており、金色の髪に真っ赤な目、耳は尖っているが

高貴で中性的な顔立ちをしている。



理緒は少し考えて言った。

・・・君の名は緋聖(ひせい)・・・

・・・ありがとうございます・・・

緋聖はお礼を言うとそのままイヤーカフスの中に消えた。

アジスは目を見張っていたが、気を取り直してイヤーカフスを

箱から取り出して言った。


「知っての通り、このイヤーカフスには精霊がいる。

 この精霊がローレンシャでの生活を支えてくれる。

 つけて見ろ。」

理緒が銀色に光り輝いているイヤーカフスをつけると

緋聖の声がした。


・・・リオ様何でも聞いてくださいね。・・・

どうやら心強い味方が増えたようだ。




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