ルーレンの夜明け

       第61話 試験 工房学校・魔術学校

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次に連れられて来たコテージは、

広い作りになっていて、中がガラスで数か所に区切られていた。

ガラス張りの所に近寄ると、


靴や日用品を作っている場所。


楽器を奏でている場所。


パフォーマンスや大道芸らしい芸をしている場所。


絵画や陶器が陳列している場所。


多くの花や樹が展示されている場所。


洋服を作っている場所があった。


ガラスの扉には、「興味のある場所に自由にお入りください。」とあったので

理緒はまず、花や樹が展示されている場所に入った。

そこから、精霊が呼んでいるのが聞こえたからだ。

理緒が部屋に入っただけで花や樹が喜び、色が濃くなり

たくさんの精霊が寄ってくる。


頭の上にとまっている紫苑も嬉しそうに小さな羽根を伸ばして

軽く羽ばたいた。

精霊たちは、理緒の近くに寄って一生懸命話しかける。


理緒は、微笑みながら精霊達の導く木の下に腰を降ろすと、

たくさんの小鳥たちが理緒の周りに集まり美しい歌を奏でた。


「君は、緑の人なのかい?」

その時、優しげな男が理緒に話しかけて来た。

「緑の人?」

「ああ。精霊の声を聞き、精霊に手助けをする人だよ。」

「確かに精霊の声や歌は聞こえます。」

理緒が言うと男は微笑んで言った。


「ようこそ。工房学校、緑の専攻へ。」

「緑の専攻?」

「ああ。精霊を手助けして、花や木を増やす専攻なのだが、

 どうしても、ルーレンを旅することが多くてね。

 ちなみに僕らは精霊を使役するわけではないから魔術学校ではないんだ。

 ただし、生活の糧の為に他の工房の科目も履修しなきゃいけない。

 一見工房には関係なさそうだからね、人がここにくる事は少ない。

 しかも、この部屋のシンボルツリーに気に入られるなんて。」


「気に入られる?」

「ああ。葉が僕達を覆っているだろう?それは木に好かれている証拠なんだ。

 君はいったい・・・?」

「これから、よろしくお願いします。」理緒はそう言ってさっと頭を下げた。

男は、「こちらこそ。」と言って話題がそれたので、理緒はコテージを後にした。





次に案内された場所の前には、昨日会った最高神官が待っていた。

理緒が「昨日は、お世話になりました。」と挨拶すると最高神官は

「うむ。」と言った後にコテージの中の個室に理緒を案内した。



最高神官は、理緒に椅子を勧めるとコーヒーのような飲み物を淹れながら言った。

「わしは、本来はここにはこないのだ。

 しかし、どうしてもここにいる必要が出来た。

 それは、リオンが化身様だからだ。」

「それが、何か?」

「リオンは、魔力はどこから来ていると思うかね?

 そして、魔力を持つものが段々少なくなった原因は?」

「ひょっとして私と関係があるのですか?」

理緒は、驚いて言った。



「ああ。元々この国は、神官の国。

 この国では、化身様の守護を受け入れるつもりは無かった。

 この国の神官はここを化身様の心の休む場所にしたかった。

 本来、学校も化身様が喜ばれるように神官がいろいろな職人を

 呼び寄せたのが始まりだったと聞いている。

 だから、この国の名。ローレンシャは元々世界樹があった地名

 から取ったのだ。」

「だから、精霊達はお帰りなさいと言ったんだ。」

「やはり精霊の声が聞こえるのだね?」

「はい。今周りにもたくさんの精霊がいます。」

「結局、魔力というのは精霊なのだよ。

 ルーレンには、いろいろな精霊がいる。

 火の精霊、水の精霊、風の精霊、土の精霊、

 光の精霊、闇の精霊、花や緑の精霊、

 そして、このローレンシャは精霊の国でもある。

 前の化身様が精霊をここで癒すようにしていたからだ。

 精霊が癒えると、化身様も癒えるという話を聞いて

 ローレンシャの神官は精霊を引き受けたのだよ。」

「だから、精霊が多いんですね。」

「ああ、そして、精霊に好かれた者が魔術を使える。

 そして、ローレンシャで学ぶことでより多くの精霊の加護を

 得るからルーレンのどこに行っても精霊が力を与えるんじゃ。

 そして、その精霊達全てを従えるのが化身様じゃ。」



「つまり、魔法学校の専攻は全てだと・・・。」

「いや、話が早くて助かるな。

 そうは言っても、一般の生徒が使う魔術とは違うじゃろうから

 基本が終わったら、じかにわしと大神官が教えるぞ。」

そうにっこり微笑む最高神官を見ながら

理緒は味は紅茶で見た目はコーヒーのお茶をゆっくりと飲んだ。

「後は、リオン。化身様としての行事がこれから結構あるのだが・・・。

 まあ、それは落ち着いてからにしようかのう・・・。」

そう言ってフォッフォッと笑う最高神官を理緒は疲れたような目で見た。




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