ルーレンの夜明け

       第55話 下船

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ネスは、船の揺れがおさまっていることを不審に

思い、船室を抜けようと思ったが外から鍵がかかっていたので

椅子に座ってユタ達が戻ってくるのを待っていた。



しばらくすると、扉が開いて、ユタが理緒を抱えて入ってくるのを見て

立ちあがった。

「どうしたのですか?」

ユタはそれに答えようともせずに、空いている誰も寝ていない

寝台に理緒を横たえると、不器用ながらも優しくその体に布団を掛けた。



「まさか、怪我を・・・?」ネスがそう言うとユタは首を振って言った。

「いや。怪我はしていないが疲れて眠っている。

 何しろ、帆を下す作業をさせたからな。」

ネスはその言葉にピキンと固まった。



「ユタ・・・彼は新入生ですよね。

 まだ、ローレンシャに入れるかどうかすら決まっていないものに

 作業をさせたのですか?」

「ああ。でもこの子はローレンシャに受け入れられないわけはない。」

「どういうことですか?」

「そうギルス大神官がおっしゃったからだ。」

「そうですか・・・。」ネスはそれ以上何も聞かなかった。



船酔いから回復する新入生の横で理緒はいっこうに目を覚まさずに

スースー寝息をたてて眠っていた。

次の日、船の入港案内があってから理緒はようやく目を覚ました。

顔を洗って着替えると、船室には他の新入生の姿はなく、

ネスとユタが待っていた。



ネスは、書類を理緒に渡すと口を開いた。

「他の新入生はもうはじまりの門に行っております。

 あなたが最後です。

 私達とはここでお別れです。

 幸運を祈ります。」

理緒は、書類を受け取ってにっこり微笑んで

「ネス。ユタ。お世話になりました。」と言って船室に背を向けた。

その時、ユタが理緒を呼びとめた。



「礼だけ言わせてくれ。ありがとう。恩にきる。」

理緒はただにっこり微笑んで頷いた。

船室を出ると、淡い青い服の神官が来て

「リオンですね。はじまりの門へ案内致します。」と言った。

リオンはその後ろをついて行く。



船から小船に乗り換える所にいたのは船長だった。

船長は、理緒が小船に乗るときに小さな声で言った。

「幸運を祈ります。」

理緒は「お世話になりました。」と微笑んで小船に移った。




ユタは理緒が船室を後にするとすぐに甲板に行った。

そこにはユタの部下と船員達が甲板で立位の最敬礼をしていた。

ユタも自然とその横に立ち立位最敬礼をする。



ユタの様子がいつもと違うことを心配して甲板にのぼってきた

ネスや他の武官も甲板での光景に思わず足を止めた。

甲板の一つ下の、さっき理緒が小船に乗り移った場所では

船長が同じように小船に向かって立位最敬礼をしている。



神官の敬礼にはたくさんの種類がある。

その中で一番敬うべき人に対する敬礼は最敬礼と呼ばれる。



そう、敬うべき人は、ローレンシャの主である世界樹の化身。

ネスは、はっとした顔をすると、すぐにユタの後ろに行き

同じく最敬礼をした。




理緒は、船から離れると岩山の上に建っている建物の数々を興味深そうに見た。

そして、もう1度。自分が乗ってきた船を振り返った。

そちらから、溢れる温かい想いを感じ、嬉しそうに微笑んだ。

桟橋のようなところに着き、少し歩くと大きな建物の前に着いた。



その前には小さな小屋があり、さっきの神官が書類をその中の神官に渡した。

「ああ。具合が悪くて寝ていた子だね。

 そこの椅子に座って、はじまりの門の神官が戻るのを待っていなさい。」

小屋の神官はそう言って理緒に小さな椅子をすすめてくれた。





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