ルーレンの夜明け

       第53話 不測の事態

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「揺れがすごいですね。」

それから2日後、ネスが真っ青な顔をして言った。

「ネス、寝台で休んだ方がよいよ。」

「あなたは強いですね。でも、新入生のお世話が私の仕事ですから。」

ネスはそう言いながらも具合が悪そうだ。


ユタが船室に入って来ながら言った。

「船員ですら、船酔いをしているらしい。

 船長から、特例の命令が出た。広間に動ける者全て集合せよ。という事だ。」

「では、私も・・・。」

立ちあがろうとするネスの肩に手をやって理緒が言った。


「ネス、そこの俺のベッド使って・・・。俺も行く。」

「でも・・新入生は・・・。」ネスがそう言ってユタを見たが

「船長命令だからしかたがない。とにかく、行くぞ。」

ユタはそう言って理緒を連れて船室を出た。



船室を出て、階段をあがり外を見て理緒は驚いた顔をした。

「外が真っ暗。」

「闇の影響だ。リタニア王国は闇が無くなったから良かったが、

 この辺りは闇が強くて、この船は闇の狭間をぬっているようなもんだからな。

 リオ、俺のそばを離れるなよ。」

ユタはそう言うと、理緒の肩を抱いて階段をあがり、大きめな扉を開けると

その中に入った。



部屋の中には、数人の大人と10代後半の学生風の男数人だけだった。

全員で20人位しかいない。当然のようにデュアスとギルスもいる。

「動ける者はこのくらいしかいないのか・・・。」

船長は、そう言って溜息をついた。



「この船は帆船だからこれから帆をおろしたいが

 乗組員がほとんど船酔いでやられてしまった。

 だから、帆をおろすためにマストにあがってもらえる

 者を募りたいのだが・・・。」



「こんなにゆれているのに帆なんておろすことが必要なのですか?」

学生の1人が言うと船長は

「ああ。ローレンシャは島でその中心に向けて吹く風に乗らなければ

 無事港につけないんだ。だから、帆を下さなくては港につけないんだ。

 とにかく全部の帆とまでいかなくても大きな帆を2枚はおろしたい。

 ここにいる船員5名を手伝ってくれる者はいないか?せめて、後5名

 いると何とかなるのだが・・・。」

皆は黙ったままだ。



「あっ。俺やりま〜す。」理緒は勢いよく手をあげた。

「坊や。遊びじゃないんだよ。」船長が重々しく言ったが

理緒はにこっと微笑んで言った。



「船長さん、だって希望者募るって言ったって、今にも吐きそうな人数人じゃだめでしょう?

 そしたら、おのずとやれる人決まってくるでしょう?

 それに、俺は小さいから登るのも早いと思うよ。」



確かに、顔色が良い者は理緒の言うように少ない。

理緒の挙手に、デュアスとギルスが黙っているわけもなく、

結局、理緒、デュアス、ギルス、ユタとユタの部下2人が志願した。



まず、船倉に行って、船長とその他の船員に船の帆のおろし方を

習った。それから船倉の壁でマストにあがる練習をしたのだが、

理緒とデュアスは軽々と上の方に登って行く。



ギルスも2人ほどではないが軽々とのぼって行く。

船員達も驚いたように理緒とデュアスを見つめた。

理緒とデュアスは、上まで登りきると片手でぶら下りながら

普通に会話をしている。しばらくするとそれにギルスも加わった。

ユタとユタの部下と船員も3人ほどのスピードじゃないが上に行くと

3人はすっかり一番上で寛いでいた。



ちなみに船は大きくゆれている。

「なんで、3人で寛いでいるんだ?

 それにあの速さ、あんたたちはクアクですか?」

船員は驚いたように言った。

ちなみクアクと言うのは猿のような生き物だ。

自分が教えなくても、既に3人とも命綱までつけている。

そこで、船員から、マストの上での注意事項を聞くと

理緒達はまた、驚くようなスピードで下まで降りていった。



下に降りて行くと、船長がまじめな口調で理緒に話しかけた。

「俺の船に来ないか?」

理緒は笑いながら首を振った。




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