ルーレンの夜明け

       第52話 船旅

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しばらくすると、船室にぞろぞろ人が入ってきた。

そして、最後に神官達が入ってきた。

「空いている席に座れ。」

大きな体の男が言った。

「ここの船室はローレンシャの新入生の為の船室です。

 新入生は、この階しか歩き回ることができません。

 尚、1日に2回、運動の為甲板に出て良い時間を設けます。

 ローレンシャまでは3日の航海になります。

 尚、この中では全て神官の指示に従って行動してください。

 神官の指示に従わない者は、帰る船で折り返し国に帰って戴きます。」

そう言うと、周りから溜息がもれた。


「特に船酔いには注意してください。ローレンシャと各国の神官達が

 結界を作っていますが、その結界は年々狭くなっています。

 時々、その結界を破って闇が迫ることもあるので、勝手に外に出ないで

 下さい。」

そう神官が言った通り、港を出て一刻ほどが経ち、外海に出ると船は大きく

揺れ始めた。


理緒以外の者はほとんど、寝台に行って蒼い顔で横になり、

神官はその者達の世話で右往左往していた。

理緒は、ヨットや特殊部隊の訓練でもっとひどい状態の船を体験したことがあるので

のんびりと椅子に座っていた。



「リオン、大丈夫ですか?」

さっき船室に案内してくれた神官が言った。

「大丈夫です。それより・・・。」

理緒は、そう言って神官を見あげた。

「どうしました?」神官は不思議そうな顔をした。

「あの・・おなかすきました。」

この状態でおなかがすくのか?そこにいたもの皆がそう思った。



「そろそろ、お昼ごはんですものね。どんなものを食べたいのですか?」

理緒はにっこり微笑んで大きな声で「肉!」と言った。

その途端、蒼い顔で吐く者が多数でた。




「ほい!オチビさん、お待ちかねの肉だ。」

そう言いながら船のシェフは理緒の前にどんと肉の入った皿を置いた。

結局、理緒は病室と化している船室から船員の食堂に移り

ご飯を食べることになった。



目の前には、大きな体の神官と理緒を気にかけてくれる神官が座っている。

神官の前にはあっさりしたスープとサラダとパンが並んでいる。

理緒の前にはそれに熱々のステーキが加えられていた。

「あれ?お肉は?」

理緒はステーキを頬張りながら言った。

「むしろ、肉を食べようとする方が変わっている。」

大きな神官はそう言いながらスープを啜った。



「え〜〜。肉食べなきゃ、力つかないよ。」

理緒はおいしそうにステーキを食べ始めた。

「本当に船酔いしてないみたいですね。」

優しげな神官もそう言いながらスープを飲んでいる。

「あの・・名前知らないから、なんと呼んでいいのですか?」

「ああ、俺はリタニア―ローレンシャ線の第一武術神官長のユタだ。」

大きな体の男はそう言った。


「私は、第一武術神官 お世話係のネスです。」

優しげな男が言う。

「これから、よろしくお願いします。」理緒はそう言って礼をすると

ユタは、「礼儀正しい坊主だ。」と言って理緒の頭をグシャグシャ撫でた。



「武術神官って、何の武術をするの?」理緒は無邪気な顔で言うと

ユタは「俺は剣術。ネスは弓術だ。」と言った。

「ユタ剣術なんだ。当然毎日鍛錬するよね。

 俺、毎日デュアスと鍛錬していたから、ユタつきあってよ。」

理緒はにこにこ微笑んで言うと驚いたようにネスが言った。



「デュアスって、あの、デュアス・ディ・ヴァラン?」

「うん。デュアスって人気者?」

「武術学校で学んでいて、デュアス・ディ・ヴァランの名を知らないものはいない。

 ここ数十年で一番の生徒だからな。

 俺たちと次元が違うんだ。」



「ユタ、その次元が違うって?」

「俺たちは、武術学校を修了してこうして武術神官をやっている。

 デュアスは、これから武術上級学校に通うんだろう?

 そもそも、武術学校修了しても上級学校に行けるのは

 数年に1人だ。たぶん、デュアスは上級学校唯一の生徒だな。」

「へ〜〜〜。デュアスってすごいんだねぇ。」

理緒はデュアスの事を褒められて嬉しそうに微笑みながら肉を頬張った。




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