ルーレンの夜明け

       第48話 新たな旅立ち

本文へジャンプ



「リオー。」

遠くでギルスの呼ぶ声が聞こえる。

「デュアス、ギルスが探しているよ。」

理緒はそう言いながら

・・紫苑(シオン)羽根をもどして。・・

理緒の声を聞いたマイラは羽根を戻し、一瞬後には

鳩くらいの大きさになり理緒の肩に乗った。

・・・リオ・・・コレデイイ?・・・

理緒が紫苑と呼んでいるマイラは片言で理緒と意思の疎通ができる。


・・・ありがとう・・涼しかったよ・・・

マイラは嬉しそうに目を細めた。

この紫苑というマイラは、リタニア王国から理緒達を運んで来たマイラで

理緒が外に出ることができるるようになるとすぐに理緒に懐いた。


体もどうやら大きくなったり小さくなったりできるようで中々面白い。

理緒もすっかりペット感覚でそばにいることを楽しんでいる。



理緒は一緒に休んでいたデュアスの腕に軽く手を置くと

そのまま2人は理緒の名を呼んでいるギルスの方へ歩いて行った。

理緒達がギルスの方へ行くとギルスは

「心配したんだぞ。」と理緒の頭をグシャグシャ撫でた。


外に出て具合が悪くてギルスに心配ばかりかけていたので

理緒も苦笑するだけだ。



その日の全員での夕食が終ってから理緒が口を開いた。

「そろそろ、また旅に出ようと思う。

 まだ、このルーレンは元に戻っていない。」

「行先は決めているのかね?」

ゼストが言うと理緒が頷いて言った。



「次は学問の国。ローレンシャへ行こうと思う。

 学ばなければいけないことがたくさんある。」

「どこまでもお伴するぜ。なあ、デュアス。」

ギルスがそう言うとデュアスは頷いて言った。

「ああ。」

「デュアスは、卒業目指さなきゃ!」

理緒がデュアスを見あげて言うとデュアスは理緒の頭を撫でて言った。

「ああ。早いうちに卒業する。」



その時、マーシェが進み出て言った。

「私は、ここに残りたいのですが・・・。」

「マーシェ。」理緒はそう言いながら真剣なマーシェの顔を見つめた。

「私は神官ですが、ギルス様のように自分を守ることもできない。

 せいぜい傍にお仕えしていても身の回りのお世話しかできません。

 でも、ここにいると世界樹を守ることができる。

 そして、アリが神官を志すと言った以上、アリを一人前の神官にし、

 ゼスト・アリとともに世界樹を守り、この場所を居心地良い場所に

 整えるこそが私の役割になると思いました。

 私はここで確かに貴方にお仕えしたいのです。」

マーシェはそう言うと頭を下げた。



それを聞いていたギルスが口を開いた。

「前にも言った通り、世界樹の化身を守る騎士と神官は5人ずつと言うのは

 騎士だけで、神官は違う。しかし、神官の中にはその核になっている者がいたのは

 確かだ。5人と言われているのは、

 どんな時にも化身様につき従う神官が5人いたからそう言われているだけだ。

 実は、核となった神官はそれだけでない。

 以前の化身に仕えていた主神官は20人もいた。

 その役割の中でも世界樹を守る神官は7人ほどいたそうだ。

 世界樹はこのルーレン自体だ。」ここで、ギルスは神官の礼をしながら言った。

 「マーシェ・ゼスト・アリに化身様の祝福をお与えください。」


 「ゼストとアリも神官?」

驚いたように理緒が言ってゼストとアリを見つめるとゼストは頷いて言った。

 「ああ。わしはどうやら以前の化身様に会った時、

  化身様がわしの時間を緩やかにしたらしい。

 そして、リオが前にこの島を出ていく時アリと共に世界樹を守ると誓った時に

 どうやら神官としての誓願が果たされたらしい。」


 「アリ、そうなの?だってアリには神官以外でもやりたいことがあるはずなのに?」

アリはゆっくり首を振って言った。

 「僕は、世界樹と一緒に大きくなったんだ。

  おじいさん以外の家族が僕を見捨てても、この樹は僕のそばにいてくれた。

  だから、この樹を守るなら神官になりたいと思ったんだ。」

理緒は、微笑んで言った。

 「ありがとう。マーシェ。ゼスト。アリ。この樹は俺。俺はこの樹なんだ。

 どうか、この樹を頼みます。」

そう言うと、理緒はまっすぐに両手を伸ばした。


マーシェとゼストとアリはギルスが渡した小刀で

自分の指を切って理緒の手に血を落としながら言った。



「私はあなたの忠実な僕となることを誓います。

 あなたは私の絶対。私の血はあなたの血。

 私の肉はあなたの肉。

 私は私をあなたへと捧げましょう。」


すると、その赤い血は金色の粉となり理緒の体に消えた。


こうして、世界樹を守る神官が3人誕生したのだった。





理緒が旅立つ決意を決めてから

旅立ちの日までは結構な時間が掛った。


それは、ギルスがマーシェに大神官としての手ほどきをしたからだった。

その間、アリとゼストは理緒達の為に保存食を作ったり

暖かい外套を仕立てたりと忙しく働いていた。


理緒は、薬草を干したり自分が知っている医術を整理したり

デュアスと鍛錬して過ごした。

デュアスは、理緒が作った剣をようやく扱えるようになった。

この島は世界樹の力が強いので他の場所なら疲労を感じる

この剣で鍛錬していても大丈夫なそうだ。




そして旅立ちの日。

マイラの紫苑は理緒の肩から降り、

大きく翼を広げた。

すると体も大きくなり、理緒とデュアスとギルスが荷物を持って

乗っても余裕があるくらいになった。



「マーシェ。後は頼むね。皆元気で・・・。」

理緒がそう言ってマイラの背中に乗るとデュアスとギルスも理緒の後から乗った。

デュアスは後ろから理緒をしっかりと抱きしめて支える。



「リオ様、お気をつけて!!」

「いつでも待っているぞ!!」

「リオ、元気で!!」

マーシェ、ゼスト、アリの声が聞こえる中、

紫苑はゆっくりと翼を羽ばたかせ真っ青な空の中に飛び立った。



第1部 Fin


 BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2010 Jua Kagami all rights reserved.