ルーレンの夜明け

       第46話 世界樹の実

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「デュアス、体大丈夫?」

このところ、繭に入ると理緒は心配そうにデュアスを見あげて聞く。

「ああ、ギルスの薬湯が効いたようで大丈夫だ。」デュアスはそう言いながら

理緒の頬にキスをして言った。

「1人で寂しい想いをさせたな。」

理緒が首を振りながら笑って答えた。



「確かにいつもより寂しいなあと思っていたから思いつく限りの筋トレをしたんだ。

 ほら、腹筋ふっか〜つ!!」

そう言って割れた腹筋をお茶目に見せるとデュアスもクスッと微笑んで

理緒をゆっくりと押し倒す。



「あっ。デュアス。」

理緒は倒れながらもデュアスの目を嬉しそうに見る。

「愛している。リオ。」デュアスはそう囁きながら

理緒を熱い目で見下ろした。



確かに体は辛いが理緒を抱けば抱くほど心の中に暖かい想いがあふれ出る。

理緒と一体になることによって心も体も満たされ、理緒と結びついた気持ちが

体中に溢れそして、その力が世界樹の花に流れていくのがわかる。

そして花は、その力を蓄えて実をつけるのだ。



理緒もデュアスは自分の体の一部という感覚が強くなったようで

遠慮もなく朝に夕にデュアスを求め、それが当たり前だと思っていた。

2人はこの繭の中でまさに蜜月というような時間を共有していた。



そんな日が続いたある日の朝、ゼストが大声でギルスを呼んだ。

皆が世界樹のところに行くと世界樹の色とりどりの花は実となり

それは光となって舞いあがるとそのままリタニア王国の方へ飛んでいった。



それと同時に繭が割れ、毛皮のコートを羽織った理緒の肩を

優しく抱いたデュアスが降り立った。

「リオ・・・。」

ゼストとギルスとアリとマーシェは久々に見る理緒に向かって

思わず膝をついて平伏した。



理緒の周りを金色の光が覆い神々しかったからだ。

「ギルス・ゼスト・マーシェ・アリ。ただいま!」

理緒はそう言って手を伸ばすと金色の光が4人を覆う。



すると、黒い靄が4人の頭から出て金色の光に溶ける。

理緒はここでにっこり微笑んで深く息をつくと

「デュアス、眠い。」と甘えるように言った。

「ああ。こちらに体が慣れていないのだろう?

 ゆっくりとおやすみ。」

デュアスは微笑みながら理緒の頬にキスをすると

理緒はゆっくりと目を閉じた。



理緒がスースー寝息をたてるとギルスが驚いたように口を開いた。

「繭の中にいるうちにすっかり熱々になってしまったな。」

周りを見ると純情なアリとマーシェが真っ赤になって顔をそむけている。

「そうか?」デュアスにはその自覚が無いらしく真顔で答えると

ゼストがこらえきれないように吹き出して笑い始めた。



数日後・・・

「父上〜〜。父上〜〜。」

リタニア王国の皇太子は王の間に小走りで駆け込んだ。

何だか随分興奮しているようだ。

「どうしましたか?」王は息子の興奮した様子に立ち上がって静かに聞いた。



「今日、城下町で聞いたのですが、子が生まれるそうです。

 その人数も結構な数にのぼるそうです。」

「それは、本当ですか?」王はそう言いながら理緒達が消えた空を仰ぎ見た。

数日前から数年ぶりの冬が終わり春めいてきたのだ。


「ええ。城下町の病院では対処しきれないのではと皆が言っておりました。」

「そうですか?せっかく化身様が与えてくれた機会です。

 子供が無事に生まれるかは私達の仕事。

 早速助産の施設を作れるか、閣議を開きましょう。」

王は喜びに顔を綻ばせて言った。



「化身様に幸せと感謝を。」

王と皇太子は膝を折って空を見上げて言った。

そして、リタニア王国の人々も新しい命が産まれる嬉しさに祈った。



「どうか、この子が無事産まれますように。

 化身様に幸せと感謝を。」


その祈りは世界樹に届き世界樹は青々とした葉を大きく広げるのであった。



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