ルーレンの夜明け

       第43話 世界樹の花

本文へジャンプ




「デュアス、大丈夫か?」

ギルスが繭の外に出てきたデュアスに言った。

繭ができてから2週間が経った。

繭の外ではいまだに精霊の歌声が聞こえる。

「ああ、でも疲労しているのは俺だけでないからな。」

デュアスはそう言いながらギルスの肩につかまって

ゆっくりとゼストの家に向かった。

2人の姿を見たマーシェとアリがテーブルの上に

作っておいた料理や果物を並べ、ゼストがデュアスの為に作った

薬用酒を差し出した。

デュアスは、酒を飲むと料理を食べはじめた。

「理緒は元気だったか?」ギルスが聞くとデュアスが頷いて言った。

「元気そうではあったが、疲れた様子だった。

 闇の影響で、リタニア王国の精霊しかこの近くに来れないらしいから

 浄化はかなり大変だと言っていた。」

「そうか。こればかりは手伝うこともできないからな。」

「精を吸われてはいるが、器である肉体はかなり筋肉が落ちている。

 たぶん、外に出れたら体を休める必要もあるだろう。」

「どのくらいこのままかはわからないからな。」

ギルスは薄く光り続けている世界樹を見あげて言った。


理緒は世界樹の中でため息をついた。

「思ったより大変だ。」

この状態になって眠くはないが、やることが多かった。

世界樹の中に入ったことで理緒はこの樹が自分と繋がっていることを

より一層意識するようになった。


この世界の人間の魂は、世界樹に吸い込まれ土の中で浄化を待つ。

その魂には、神殿などで守られた魂や魂自体の輝きで闇が近寄れなかった魂と

闇に侵されたり、生前悪行を働いて輝きを失った傷ついた魂がある。


そして、世界樹は根から魂を取り入れ浄化をする。

綺麗な魂は、難なく樹の中に取り込まれ

花を咲かす準備に入るのだが、傷ついた魂は幹の中の部屋で理緒が力を使い

傷を癒さなくてはならない。



今の理緒の力の源は精霊の歌なのだが、多くの傷ついた魂を癒すには

精霊の数が足りない。


世界樹に挨拶にきた精霊に聞くと、ここに集まった

精霊はリタニア王国の精霊達で、他の国の精霊は闇に阻まれて集まることが

できないそうだ。



それでも、あきらめずに魂ひとつひとつを持って自分の本来もった力で治す。

理緒の力で光りはじめた魂は樹の枝を目ざしてその部屋から飛び出していく。

「あと、もう少しだ。ファイト自分。」



理緒はそう言いながら傷ついた魂が一時的にいる目の前にある泉を覗きこんだ。

この部屋に来た時は、泉の水の色さえわからないくらい黒かった泉が

青くなっている。



理緒がそこに手を翳すと自然と手に丸いボール状の黒い傷ついた魂が乗った。

「でも、こうしていると愛着がでるなあ。」

理緒はそう言いながら手の中の魂に意識を集中させた。





次の朝、いつもと同じように理緒を抱いて疲れ果てて

繭から降り立ったデュアスはその近くにたたずんで

感激したように上の方を見ているギルス・マーシェ・アリ・ゼストを

不思議そうな顔で眺めた。



精霊の歌う曲も華々しいメロディに変わっているような気がする。

デュアスはその視線を上にやって息をのんだ。



「花だ・・・。」デュアスがそう呟くとギルスが頷いて言った。

「ああ。この花が実となり魂になる。この世界に子供が生まれるんだ。」



ルーレンには小さな子供がいない。

魂を浄化する世界樹が無くなったからだ。

人々の年齢が高齢化し、子供がいないことは、どの国でも大きな問題だった。



しかし、理緒の世界樹が花をつけ、実をつけることで

新しい命が誕生する。

それは、ルーレンに住んでいる者に取ってとても感慨深いものだった。



大きな世界樹に守られるように咲く色とりどりの花、

1つとして同じ色の花はない。

それがそれぞれの魂になるのだから。



5人はしばらく、そこで美しい花に見とれていたのだった。





 BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2010 Jua Kagami all rights reserved.