ルーレンの夜明け

       第42話 精霊の歌

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世界樹の島、フレン島。


理緒がこの島を出て行ってからも、ゼストとアリは

世界樹の世話をしながら樹の下に建てた小さな家で暮らしていた。

この場所は、まさに楽園でありいつも春のような陽気で

木の実も豊富になり、川には多くの魚が泳いでいるので

ここを離れなくても十分に生活できる。


そして、腰痛持ちだったゼストの腰も治り気力がみなぎり

多少の重労働をしても疲れない。

だから、いつ理緒が帰って来ても良いように自分達の住んでいる小さな家の隣に

石造りのこじんまりした家を作った。


アリは背がぐんぐん伸び体力も付き、大抵の男の仕事はできるようになった。

今日も、朝早くから起きて森を歩いて熟している実を集め、

小屋の隣に作った畑の世話をしていた。



その時、空からバサバサ鳥の翼の音が聞こえると、畑のそばの空き地に

大きな美しい色の鳥がおりたった。

その鳥から人が降りるのを見たアリは走ってその側に行った。

何よりも世界樹を守らなくてはいけないと思ったからだ。



窓から鳥の姿を見たゼストも急いで家の外に出てきた。

アリとゼストがその鳥のそばに行くと、ギルスとマーシェが毛皮のコートを脱いで

デュアスの腕の中で眠っている理緒の方からも毛皮のマントをはずしてやっている所だった。



「リオ。」アリはデュアスの腕で抱かれて、ぐったりしているようにみえる

理緒に駆け寄って言った。

「大丈夫だ。アリ。リオは眠っているだけだ。」

デュアスが微笑みながら言うとアリは驚いたように口を開いた。



「なんで・・僕の名前・・・。」

「リオから、世界樹を守っているゼストとアリの話は聞いている。」

そんなことを聞いていたのかと不思議そうにギルスがデュアスを見たが

デュアスは穏やかな表情で微笑んでいるだけだ。



実際は、リオと一体化した時にリオの記憶を見たから知っているわけで

それを説明する必要はないとデュアスは思った。

デュアスは理緒を抱えたまま知っている場所を歩いているようにまっすぐ

世界樹の方に向かった。



「これが、世界樹。」ギルスが感慨深げに大きな木を見あげて言った。

世界樹は堂々とした枝ぶりで青々としていた。

デュアスが樹に近づくと樹から白い蔦のようなものが現れて

デュアスと理緒を包んだそれは2人を包んでゆっくりと2人を持ち上げ

繭のように2人を取り囲んだ。



それと同時に葉が紅く染まりだし、ちらちらと葉が落ちはじめた。

皆はその下で心配そうに木の上の繭みたいなものをながめていたが

かなり時間が経ってもそのままなので木がよく見えるゼストの家に入って

窓越しに世界樹を見つめていた。



そのうち、その繭が淡く光り始めると森の中から様々な光が樹に集まり

美しいメロディーが聞こえる。

その音はとても優しく郷愁を誘うようなメロディだ。



「「精霊の歌・・・。」」

ゼストとギルスが声を揃えていった。

それは、ルーレンの子供達なら皆が知っている話に出てくる。



(創世記より抜粋)

空間に一粒の種が育ち、それが世界樹になった。

世界樹はルーレンに根ざすことにより大地ができた。


世界樹が水が欲しいと思ったので雨が降り、川ができ、海ができた。

そこで世界樹は自分の世界を歩きたくて化身様になった。

化身様が初めて歩いた後は光になりその光は精霊になり、魔力ができた。


化身様は精霊の慰めのために様々な花や生き物を作った。

そして、精霊はそれを喜び、ルーレンに大地が広がった。


化身様はしばらくは精霊と生き物と暮らした。

しかし、1人が寂しくなり自分の纏っていた色と引き換えに人を作った。

纏っていた色は黒色に変わっても化身様の美しさは変わらなかった。


初め生き物と同じように体を作ったが人には大きな魂が必要だと化身様は思った。

化身様は世界樹と一体になり精霊が歌を歌った。

そしてできた魂が花となり実となって世界樹の愛に包まれる。

その実が世界樹の愛で浄化されると実は魂として体に入り人となった。


そして、人は死すと魂は再び世界樹の元に集まり、精霊と世界樹の愛に包まれ

魂が浄化され花となる。

だから我々の魂はひとつ、我々の魂の母は世界樹。

ルーレンに栄光を。






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