ルーレンの夜明け

       第41話 旅立ち

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翌朝、いつもは早起きする理緒がなかなか起きてこないので

心配したデュアスが理緒の寝室を覗き込むと

理緒がすやすや眠っていた。


「疲れているのかもしれないな。」

デュアスは理緒の髪にキスをするとそのまま部屋を出て行った。

しかし、午後になっても夕方になっても次の朝になっても

理緒は眠ったままだった。


デュアスとギルスは心配して何度も理緒を起こそうとしたが

眠り続けたままだ。


王と皇太子も理緒の様子を聞いて王家直属の医師をよこしたが

眠っているという診断だけで異常はないだろうという診断だった。


デュアスとギルスは神殿の古い書庫をあさり、化身についての

様々な記述を読んだ。すると、化身は一年のうちの数ヶ月を騎士とともに

世界樹の元で休むという記述があった。


化身が世界樹の元で眠ると世界も眠り冬が来るらしい。

「そう言えば、少し寒くなってきたな。」

ギルスはそう呟いて書物を読み続けた。


夕方、王と皇太子と会食の時にデュアスはその話をした。

「なら、化身様を世界樹の元へお連れしなければならないですね。」

王がそう言うと、ギルスが口を開いた。


「しかし、我々は世界樹の場所がわからないのです。」

「それは困りましたね。」皇太子が言った。

すると、王が口を開いた。


「今朝、マイラの飼育長が化身様が来られてから生まれたマイラの中に

 大きなマイラがおり、生育も早く既に成鳥になったという報告が来ました。

 マイラ聖なる鳥、その鳥なら世界樹も探せるのではないでしょうか?」


「確かに、マイラなら海を越えることができる。

 リオが漂着した海岸はわかるのだから、そこから闇を避けると

 たどり着けるかもしれません。」ギルスが考えながらそう言った。


「寒くなってきているから、私の毛皮のコートを5着ほど持ってくる。

 軽くて暖かいから役にたつだろう。」

リュアスが立って部屋を出て行った。


このひと月で皇太子であるリュアスの体も締まり、行動も機敏になっている。

王は立ちあがると、執務机の引き出しを開けてこの世界では貴重な地図を

デュアスに差し出した。



世界樹に行くと決まった今、デュアスとギルスの行動も早かった。

すぐに神殿に戻り、マーシェに事情を説明して最低限の荷造りをはじめ、

大神官達に事情を説明して引継ぎをすませた。


次の日の朝早く、皇太子から届いた毛皮を着せた理緒を抱いたデュアスと

荷物の袋を背中に背負ったギルス、理緒のリュックを背負ったマーシェの姿が

王城のマイラの飼育場にあった。


4人の姿を見た飼育長が噂のマイラのそばに案内した。

すると、急に理緒の体とマイラの体が光り、大型のマイラが羽根を広げながら

光りコバルトブルーとエメラルドグリーンの本来の姿の他に頭に冠のように

オレンジ色の羽毛が生え、体が巨大化した。


「ひょっとして、4人乗れるってか?」驚いたギルスがそう言ったが

マイラの背は大きくて4人が乗っても十分な広さだった。



4人が乗ろうとすると、「待ってくれ。」と言う声が聞こえ

見ると、王と皇太子が長い裾に構うことなく走ってきた。

王は、デュアスの腕の中で眠っている理緒に深々とお辞儀をしてから

デュアスの顔を見て言った。


「体に気をつけて行ってきてください。

 そして、あなたの帰る家はこの城だと言う事を忘れないでください。

 確かに化身様と一体になったかもしれませんが

 あなたの身を案じている人間がいることを忘れないで下さい。」

デュアスはその言葉に感慨深げに頷いた。


次に皇太子が進み出て腕の中の理緒の頬を撫でて言った。

「リオ、いろいろありがとう。化身様って言うととても遠くの人みたいだから

 あえてそう呼ばせてもらう。また、会えることを楽しみにしているよ。」

そして、デュアスの方を見て言った。


「お帰りをお待ちしております。いろいろありがとうございます。お兄様。」

デュアスはその言葉に頷いて言った。

「この国を頼みます。」


実は、デュアスは皇太子であるリュアスより数ヶ月年上だった。

しかし、いろいろな騒動を危惧したデュアスが王に進言し、

公的にはリュアスの弟ということにしたのだった。


デュアスとギルスとマーシェは一礼をすると大きなマイラの背に乗った。

4人が乗るとマイラは飛行機のように助走をつけふわりと飛び立った。

マイラは、王城と神殿の上を1回旋回すると目的地がわかっているように

世界樹に向けて大きな翼を動かした。




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