ルーレンの夜明け

       第36話 その夜

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その日の夕方になり理緒はようやく目を覚ました。

「リオ、大丈夫か?」ギルスが心配そうに聞いた。

「う・・ん。何か疲れたかも。夕方かな?」理緒は気だるそうに起きあがり

ながら言った。


「ああ。力を使いすぎたんだ。この王都の闇を吸収し、

 結界を張ったからな。」

「ところで・・・。」

「皇太子は、リオを抱えてここまで来たのでへばって

 隣の部屋で休んでいる。」

「そうなのか?俺ならギルス運んだってそんなにへばらないぞ。」

「おい。それは、遠慮する。」


ギルスは自分よりずっと体が小さい理緒に抱えられている姿を想像して

首を振った。

「あっ。そうだ。ギルス。お願いがあるんだけど。」

「なんだ?」

「マーシェに頼んで、今日の夕方から食事を普通の神官と一緒のものにして。

 そして、明日は王都に出ようと思う。変装して、皇太子と行こうと思う。」

「大丈夫か?」

「いくらなんでも、王都の道案内ならできるでしょう?

 ギルスはデュアスの方で害虫駆除の手伝いをして。」

「害虫駆除?」

ギルスがそう言うと、理緒は意味ありげにギルスを見あげてふふふっと笑った。


その日の夕食。いつものように理緒の隣にギルス、そして逆隣に皇太子が座る。

「本当によろしいんでしょうか?」

マーシェがそう言いながらワゴンを押して来た。

ワゴンの上には、パンとスープ、少しのハムとチーズがのっている。

皇太子はそれを見て眉を顰めた。

「食べないなら食べないでいいよ。」

理緒は皇太子にそう言うとパンをちぎって口に入れた。

「結構、いけるね。」

「ああ。この神殿は食事専門の神官がいるからな。」

ギルスはそう言いながら夕食を始める。


皇太子も優雅なマナーでパンを口に入れた。

パンは硬くて、スープも薄い。

「ギルス、これでもこの国の夕食としては豪華なんでしょう?」

理緒がそう聞くとギルスが頷きながら言った。

「ああ。この国は貧富の差が激しいからな。」


「そんなはずはない。父上は貧しいものでも十分に食料が渡るように

 政策をとっていたはずだ。」

皇太子が言うと、理緒が口を開いた。

「じゃあ、その政策がちゃんと機能しているか誰がみているの?

 皇太子としてその辺の責務は果たしているの?」

「いや。それは、大臣が・・・。」

「何でも人任せで、あなたはどんな王になろうと思っているの?」

理緒のその言葉に皇太子は言葉に詰まり何も返すことができなかった。


「ところで、いつまでもあなたのこと皇太子と呼ぶわけにいかない。

 なんて呼ぶと良い?

 俺はリオで良いから。」

理緒がそう言うと皇太子は小さな声で「リュアス。」と言って立ちあがって

自分の部屋に戻って行った。


リュアスがベッドに横になっていると、ギルスが部屋に入って来た。

「何しに?」半身起こして警戒して言ったリュアスに

ギルスが目を細めて言った。


「今日は、化身様が体調が悪いということであなたも部屋に篭っていても

 明日からはそういうわけにいかない。

 デュアスは、皇太子としての代役を完璧に務め、

 品位を落とすことは決してしないだろう。

 だから、あなたも化身様の騎士の品位を落とさないでいただきたい。」

「品位を落とすなんて・・・。」


「デュアスは毎日日誌をつけていたはずだ。

 そこの机にあるはずだから明日からはその日課に従うように。」

そう言ってギルスは部屋を後にしようとして足を止めた。

「あっ。デュアスの一番の仕事はリオの予定を円滑に進めることだから。

 よろしく。」

リュアスはその言葉に首を傾げた。


理緒は、そろそろ寝ようかなとギルスに借りた本を閉じた。

「デュアス、今頃どうしているかなあ。」

そう呟いた途端に目の前に豪華なガウンを着たデュアスが現れた。





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