ルーレンの夜明け

       第35話 王族の儀式

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「化身様、どうか失礼をお許しください。

 そうだ。もし良ければ、昼食は形式ばったものではなく

 私と皇太子のみの非公式のものにしませんか?」

デアスが穏やかな口調で理緒を誘った。


理緒もその誘いに乗った。

なので、その昼食の席には王と皇太子と理緒とデュアスとギルスだけがついた。


デアスは、理緒達と和やかに会話をしてホスト役を見事務めているが

皇太子はその会話に入ってこようとはしない。

面白くなさそうに食事を進めている。



理緒は、にこやかに微笑んで皇太子に話しかけた。

「ご機嫌が悪そうですね。」

「いや・・・俺は・・・。」

皇太子はそう言いながら嫌なものを見るようにデュアスをみて言った。


「この男が俺の影だったことはご存知でしょう?

 この男は影で無ければ生きていけない男なんだ。」

つまり言外に皇太子は理緒の騎士にはふさわしくないと言っているのだ。


「そうですか?なら、あなたの方が優秀だと?」

「ああ。俺は優秀さ。」皇太子は鼻息荒くそう言い放った。


理緒は、それを笑ってやり過ごし、昼食は終わった。



昼食が終わると王城の最奥の珠の間に案内された。

この部屋は真ん中に泉がありその上にアメジストのような大きな

丸い水晶のような石が浮いていた。



「ここが、王城の王家の神殿です。

 そして、この石がこの国の核です。」

理緒はその石に近づいた。



この石がこの国を守っていたことがわかる。

「元々はこの国全体を守っていたのですが、今はこの王城が精一杯なのです。」

デアスが残念そうに言う。



理緒は首を振って静かにその石に手を翳した。

すると理緒の手から光が出てその石を包み込む。



そのまましばらくすると、ギルスが前に進み出て言った。

「そろそろやめないとお体に触ります。」

理緒は頷いて手を降ろした。

それと同時に何とも言えない疲労感が理緒を襲う。



「陛下、化身様の今の力では今の王都の守護が精一杯でございます。

 今ので、王都は闇に覆われることは無くなったはずです。

 しかしながら、昔のようにこの王国全体を守護するには

 今日1日では到底無理でございます。」

ギルスがそう言うと、デアスが頷いて言った。



「王都だけでも闇の恐怖から去るのはありがたいことです。

 化身様、ゆっくりと体を休め、リタニア王国の休日を

 お楽しみ下さい。」



デアスが優しくそう言うと理緒はギルスに向かって聞いた。

「どのくらい休むとまた力を使えるかな?」

「たぶん1月くらいで大丈夫かと思います。」

「その間、王都なら普通に行動できるんだよね。」

「ええ。」

「なら。」理緒は面白そうに顔をあげて王の後ろで暇そうにしている

皇太子を見て言った。



「私の騎士と皇太子を交換しませんか?だって、デュアスが私の騎士に

 ふさわしくなくてあなたの方が優秀なのでしょう?

 それを証明して戴きたい。」

「なっ・・・っ・・・。」

皇太子は慌てて周りを見た。



しかし、この王城の王家の神殿は王族の者と大神官のみしか入れない。

大神官達は理緒を支持する立場なので何も言わない。

困った皇太子は自分の父を見つめた。



「確かに昼食の席で皇太子は失礼を致しました。

 本人も自信があるようですしここは化身様に預けましょう。

 デュアス殿は影もおやりだったので大丈夫でしょう。」

デアスがそう言うと皇太子はあまりの事態に頭がついていかないような顔をした。



しかし、プライドがそれを邪魔して、デュアスと服を交換した。

服が交換されるとギルスが理緒の顔色を見てそのまま神殿に戻ると言った。

部屋を出るときギルスが小声でデュアスに扮した皇太子に言った。

「この部屋を出ると化身様は倒れる。それを神殿まで運ぶのが初仕事だよ。」

皇太子はギルスを睨んだが、部屋を出ると理緒が倒れたので慌ててそれを支えた。



王城の神殿に残ったデュアスに大神官達は片膝をついて神官の礼をした。

神官の礼にはいろいろな形があり、両膝をついてする神官の礼は化身とその騎士に対して、

こうして片膝をついて礼をするのは王族に対してする礼である。



デュアスが不思議そうな顔をすると大神官の1人が口を開いて言った。

「そもそも王家の神殿は入ることができる者は限られております。

 大神官と陛下の直系そして、化身様だけなのです。」

「えっ。」


「王家の神殿は、化身様の騎士と言えども入ることができない。

 それなのに入ることができた。それは貴方が王の直系つまり

 息子である何よりの証拠なのです。」

別の大神官が言った。



「ギルス殿から今朝お話を伺っておりました。

 しかし、証拠が見つからない。

 なので、この部屋に入れるなら私どもは

 あなたを王の息子と認めようと申しました。」

「ここで、洗礼と成人の儀を行います。

 ここで成人の儀を行った王族のみに

 リタニアの国に仕える大神官として

 あなたに忠誠を捧げましょう。」



困惑するデュアスの肩にデアスは手を置いて言った。

「王家の者として大神官に認められるのは洗礼ではなく

 成人の儀なのです。この儀を執り行うのは大神官で

 この方達に認められなければ受けることができません。

 ちなみに皇太子はこの儀式を受けておりません。

 どうか、短い間になりますが、この国の王族として過ごし

 化身様の騎士になってください。それが、せめてもの・・・。」

デアスはここで声をつまらせた。



いくら世界樹の化身の騎士と言ってもこのリタニアの出身となると

元の地位というのも人々の関心を寄せるものだ。


特にリタニア王国は身分にうるさい国だ。

だから、一般市民が化身の騎士になるには羨望の目で見られるのだが、

王族となると賞賛の目で見られる。



王はだからそれがせめてもの気持ちだと伝えたかったのだろう。

この人はどんなに悔やんだか、どんなに自分を責めたのか

デュアスは目の前で只涙を流すデアスを見て思った。

「わかりました。父上・・。どうか、儀式を受けさせてください。」

デュアスはそう言ってデアスと神官達にお辞儀をした。

「父と呼んでくれるのですね。」

デアスの目から涙があふれ頬を濡らした。





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