ルーレンの夜明け

       第33話 明かされる出生

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次の日の早朝、理緒はデアと会うために神殿の小さな庭園に向かった。

そこにはいつかのように黄色い薔薇のような花をじっと見つめる男がいた。

「デア、おはようございます。」


理緒が近づいて行くとデアも嬉しそうに微笑んだ。

「やあ、リオン。おはようございます。

 今日は、正式に会う予定でしたな。」

「デア、まだ戻るまで時間はありますか?少し一緒に来て頂きたいのですが。」


「ああ、後1刻くらいなら良いが・・・。」

理緒が急いでいる様子なので、デアはうなずいて理緒の後を追った。

理緒は小さな庭園からあまり遠くない部屋にデアを導き入れた。


そこには、ギルスとデュアスが驚いた面持ちで待っていた。

「へ・・へいか?」デュアスがそう言ってすぐさま跪いた。

ギルスも立ちあがって神官の礼をとるとデアが静かに言った。


「今はリオンの友人のデアだ。畏まる必要はない。」

それよりもデアはデュアスの姿を見て驚いたようだった。

自分と同じ銀の髪にアメジスト色の目をしている。


「君が皇太子の影か・・・まさか自前だとは思わなかった。

 私の影ですら目は魔術で変えている。」

理緒は、デアに向かって言った。


「確認したいのですが、 デア、あなたは黄色の花の方と

 大人の関係を持ったのですか?」

デアは、一瞬不快そうに顔を顰めたが、理緒の顔付きがあまりにも真剣だったので

「はい。私の妾妃にとプロポーズしてから数度関係を持ちました。」

と答えた。


「デュアス、頼んだ物は持ってきましたか?」理緒がそう言うとデュアスは頷いて

テーブルの上に翠色の石のついた指輪と黒ずんだ石を出して言った。


「これは、私が学校に入るときに祖父が御守り代わりに持たせてくれた指輪と

 祖父が最後まで大切に身につけていた石です。何に使うのかはわかりませんが。」

その指輪を見て立ち上がったのは座っていたデアであった。


「どうしましたか?」

「これは、カタリアに贈った指輪です。まさか・・・。」

デュアスが静かに言った。


「この指輪は、母の形見だと祖父が申しておりました。」

「あの時、カタリアは身篭ったのですか。そうですか・・・。」

デアはそう言うと、ふらふらと椅子に座った。


「陛下。私はともかく、このデュアスすら何のことかわかりません。

 説明していただけますか?」ギルスが珍しく敬語で言うと

デアは、ぽつりぽつりと以前理緒に話してくれた話をしはじめた。


話し終えると今度は理緒がデュアスと儀式を行った時に見た映像と

未来を透視できる目で見た20年後のこの国の話をした。


デアはその話を聞くとただただ涙を流した。

「陛下が・・父上・・・?」

デュアスも信じられないようにそう呟いた。


「すまない。今、当時の調査を極秘でさせています。

 きっと、真実がわかる日も近いでしょう。」

デアはそう呟いて、立ち上がるとデュアスの手を握った。


「もう、カタリアはいないけれど、

 君は私たちの愛し合った証なのです。

 君が生まれてきてくれてことに心から感謝いたします。」

その真摯な態度にデュアスの頬を涙がつたった。



「今の言葉を祖父にも聞かせたかったです。」

理緒は外を見ながら目を閉じた。


デュアスの記憶が見せた彼の祖父の最期・・・。

病床で苦しみながらデュアスに

「お前は、リタニアの誇りだ。」とうわごとのように

呟き、胸に下げた皮袋から今テーブルの上にある黒ずんだ石を

デュアスに握らせると静かに目を閉じて逝ってしまった老人が浮かぶ。


「デア、デュアス、美しいこの国を失ってはいけない。

 だから、変えなきゃいけないと思う。

 とにかく今は感慨に浸っている暇はないと思う。」


理緒の言葉にデアとデュアスは急いで顔を拭い力強く頷いた。



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