ルーレンの夜明け

       第32話 デュアスの父

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「理緒、良いのか?」

ギルスとマーシェが早速理緒直属の神官になった旨を報告すると

退室してからデュアスが口を開いた。

「だって、このままだったらこの国は崩壊するだろ?

 デュアスだって見ただろう?」


確かに、さっき理緒が力を使った時、デュアスの目には

古びた神殿と荒廃した土地が見えた。


「さっきの映像は20年後のここだったんだ。」

「20年後?その割にはずいぶん・・・。」

「ああ。荒んでいたね。」

「王政が崩れると言う事か?」

デュアスがポツリと言うと理緒が足を組みながら言った。


「そういうことだね。このままならこの美しい場所が

 ああなるということだね。

 でもね。デュアス。あくまでもこのままならね。」

「それはどういうことだ?」


「変わるきっかけを掴めばよいと思うんだ。

 未来はきっと、少しのきっかけで変えることができる。

 とにかく、俺はきっかけを与えるだけ・・。

 実際変えるのは、この国の国王なりこの国を愛している人たちだと思う。」


「リオ・・・。」

「デュアス、傲慢かもしれないけれど、俺はね。

 俺のルーレンを汚されるのは、許せないんだ。

 前の化身様は、見守ることを選んだかもしれないけれど、

 俺は、あえて首を突っ込むよ。」

そう、きっぱりと言い切る理緒の眼はあまりにもまっすぐだった。


デュアスが理緒の騎士になったことで、理緒の力の一部を心のどこかで

理解したように理緒は化身としての何かを身につけたようだ。




その後、ギルスとマーシェが部屋に戻ってきた。

2人ともどっと疲れた顔をしていた。

「どうした?」理緒が心配そうに聞くとギルスが言った。


「リオ、今日の午後から忙しくなるぜ。

 今日の午後は、俺とマーシェがリオの神官となる儀式、

 明日の午前にはは王城にて国王及び皇太子との対面があり、

 午後からは王城の結界の間で結界を強化することにより、

 王都から闇を排除する。そうすると、王都の中は自由に歩けるようになるぞ。

 そして、1週間後には、デュアスの儀式がある。」


「デュアスの儀式って?」

「それがなあ。結構面倒なんだ。これが・・・。」

ギルスが肩を竦めて言った。


「本来、この国に生まれた者は、神殿で洗礼の儀式を行う。

 その洗礼と言うのもいろいろ意味があってな。

 洗礼の儀式の時、水瓶の水の色が変わるのだ。」

「変わるってどう?」

「まあ、ほとんどがこの国に属しているという

 薄紫色なのだが、代々ここの国の中枢を握る血筋の者は

 濃い紫色、そして王家の血筋をひいている者は濃い紫色に

 金がかかるんだ。で、デュアスは他国から来たものだから

 透明になる。リタニア王国から出る騎士が透明ならまずいだろ。」


「それは、まずいよ。」理緒が立ちあがって言った。

「でも、そこは立ち会う大神官を数人にして色水を使うことで

 合意したんだ。」


「違う。ギルス、色水はいらないけれど別の意味でまずいよ。」

理緒は困ったように溜息をついた。

「どうしたんだ?」


「ギルス・・デュアスはね。この国で生まれているから

 色水はいらない。・・・でも、デュアスが洗礼を受けたら

 間違いなく水は濃い紫に金色を帯びるよ。」

「はあ?どういう事だ?まあ、遠い親戚くらいなら金色は目立たないと思うぞ。」


「いや、デュアスの金色は濃いと思うよ。何しろ直系も直系だからね。」

「どういう事だ?」ギルスはデュアスを見て言った。

デュアス自身も困惑した様子で理緒を見た。


「デュアス、デュアスのお父さんって本当のお父さん?」

理緒が唐突に聞くとデュアスは首を振って言った。

「いや、厳密に言うと祖父だ。俺は父の名は知らぬ。」


「そりゃそうだよね。

 ギルス、デュアスの外見はこの世界ではリタニアの王族しかいないんでしょう?」

「あ・・・ああ。

 これだけ見事な銀髪にアメジスト色の目は

 王様と皇太子様しかいないはずなんだ。

 似通った雰囲気を持つ影でもこんなに王族に似た容姿を持っていないはずだ。」

ギルスもきっぱりと言った。


「ああ。やっぱり。それは、偶然じゃないんだよ。」

妙に納得した様子の理緒を皆が不思議そうに見た。

「デュアスのお父さんはね。リタニアの王だよ。」

自信満々に言う理緒の顔を皆は呆然と見つめた。




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