ルーレンの夜明け

       第31話 騎士と神官

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デュアスは、そっと目を開けた。

昨夜のことが何事もなかったように体は綺麗で

シーツも新しい。

しかし、手の中の刀と理緒の体についた赤い印が

昨日のことが本当に起こったことだと物語っていた。


デュアスは大切そうに刀を自分の横に置くとあどけない理緒の顔を見つめた。

「う・・・ん。」理緒が目を覚ますとデュアスが

優しい眼差しで自分を見つめているのがわかった。

「おはよう。リオ。」

デュアスは理緒の髪を撫でてそう言う。

「夢じゃないよね。」理緒がそう言うとデュアスは刀をもちあげて言った。

「ああ。」



「俺、あの空間から戻るまでにいくつかの事がわかったんだ。

 うーーん。これはギルスも交えて話がしたい。」

理緒はそう言いながらベッドから起きあがろうとして

「体がギシギシするなあ・・・。」と小声を出すとデュアスが理緒をふわっと抱きあげた。



「この格好恥ずかしいんだってば。」理緒が抗議するとデュアスは

飛び切りの笑顔で言った。

「いや・・・。もっと恥ずかしい格好見た。」

その言葉に理緒は頬を膨らませてぷいっと別の方向を見た。



居間に着くと、ギルスが入って来た。

「朝食の前に話をしたい。」

理緒がそう言うと、ギルスは頷いていつもの椅子に座った。



「昨夜、デュアスが俺の騎士になった。それでわかったことがあるんだ。」

理緒が話し始めた。

「騎士と言うのは、俺にとって欠けたものを持って来る存在なんだ。」

「それは、どういう意味だ?」ギルスが不思議そうな顔をして言った。

「元々、世界樹の化身はすごい力を持っているらしい。

 昨日、デュアスと一体となった事で、わかったんだ。

 どうゆうわけか、デュアスの持っていた力は、元々俺の持っていた力だったんだ。

 まあ、見ていてよ。」

理緒はそう言って一瞬目を閉じる。


その目を開けた時、理緒の目はデュアスと同じ色になった。

「この目は、全てを見る力。そして属する力は大地の力。

 そして、その力は大地を育む力。」



「ああ。これが一体化すると言う事なのか?

 俺にも理緒の見ている映像が見える。・・・・これは・・・。」

デュアスがそう呟くと、理緒は苦笑しながらデュアスに目配せして何か合図を送ると

デュアスは小さく頷いた。どうやら、それだけで理緒の意思が伝わったようだった。

理緒はそれから手の上に黄色の光の玉を作って

呆然としているギルスに差し出した。


「そして、私の神官には、この力を。

 これは、この世界を維持できる最低限の大地の力。

 ギルス、受け取ってくれる?」

ギルスは神官の礼を取り、

「謹んでお受けいたします。」とその光を受け取った。

その光はギルスの体に消えた。



理緒が目を閉じ元の黒い目に戻ると、マーシェが入って来て

朝食の準備の為にワゴンからテーブルに食器を並べ始めた。


その姿をギルスが見て、理緒に話し始めた。

「理緒、お前に仕える神官というのは何も俺だけでないんだぜ。」

「それは、どういう意味?」

「騎士は5人、それは決まっている。

 でも、神官は違うんだ。

 大体、5人だけで世界樹の管理から化身様・騎士の身の回りの

 世話。様々な国との調整ができるわけ無いだろう?」

「確かに・・・。」



「リオは、そばにいてもらいたいと思う神官を指名することができる。

 どうせなら、自分を良く知っている神官の方が良いだろう?

 その神官は化身様の直属になり、化身様と時をともにできるのだ。」

「でも、それはその人の一生を犠牲にするのではないの?」


「いや。神官はお仕えした時点で年齢が止まり、その任を解かれると

 その人の人生が送れると言われている。

 それに神官にとって、直属になることはとても光栄なことだから

 その神官を犠牲にするという様に考えるな。

 リオの身の回りを考えるなら適任がいるだろ?」


理緒は、朝食が乗ったワゴンを押してきたマーシェに声を掛けた。

「マーシェ、これからも俺の傍で手伝ってもらえない?」

マーシェは驚いたように目を見張ると嬉しそうに微笑んで

神官の礼をして言った。

「謹んでお受けいたします。」



「リオ、手を翳して願うんだ。」ギルスが言うと

理緒は頷いて手を翳した。

すると、手から光が溢れてマーシェを包む。

感極まって涙ぐんだマーシェを理緒が優しく抱きしめて

「これから、よろしくね。」と言った。


「それで、これからどうするんだ?

 もうこの神殿にとどまることもないだろう?

 一応、王族への挨拶や儀式はしなくてはならないが、

 後はどうする?」

ギルスが朝食を食べながら言った。。

「ギルス、もうしばらくここにいようと思って。」

「どうした?」

「ちょっと、思うことがあってね・・。」

理緒はにっこりと微笑みながら言った。しかし、その目は笑っていなかった。




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