ルーレンの夜明け

       第26話 神官のたくらみ

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「おーーい!リオ。大丈夫か?」

理緒の前で手をヒラヒラ振りながらギルスが言うと理緒は

パチパチとまばたきをしながら

「デュアスが抱くって、抱きしめるならいいじゃん。

 と・・言うかデュアス俺なんか抱きしめるの気持ち悪いか?」

と言った。


デュアスは慌てたように言う。。

「いや。俺はリオを抱くのは光栄だ。」


「良かった。なら良いんだ。」理緒がにっこり笑って言うと

デュアスが眉をひそめて

「理緒。抱くと言うのは・・・」と言いかけると

ギルスが急に立ちあがって

「リオ、こうしているわけにはいかない。

今日も神殿に集まっている人々に顔を見せなくては。」

と言った。




「え・・・・ああ?あれ今日もするのか?」

理緒が言うとギルスが頷いて言った。

「さあ、リオ。着替えなくては。マーシェ。」と大声でマーシェを呼んで

理緒を着替えさせるように指示する。



理緒も頭を切り替えて

昨日顔見せの時のおさらいをしはじめる。

それだけ、顔みせというのは大変だからだ。

理緒がマーシェと一緒に出て行くとギルスはデュアスに言った。



「リオには黙っておけ。と・・言うか俺もきちんと説明ができない。」

「それは、どういう意味なのか?」

「いや。大神官なら誰でも、化身と騎士は体を繋げて一体化するという話は知っている。

 しかし、それ以上のことは何も知らないのだ。」


「それ以上のこと?」

「ああ。元々世界樹の化身についての細かいことは

 世界樹の元にあった神殿で管理していたのだ。

 だから、世界樹について我々が知りえることは少ない。」


「元々の世界樹は枯れ、神殿はかの国によって滅ぼされたからですか?」

「そのとおりだ。だから、デュアスにもアドバイスはあまりできない。

 しかし、このままではリオは外にでることすらできない。

 だから、リオを守る騎士は絶対必要なんだ。」



「それは知っている。ギルスは儀式をいつしようと?」

「早ければ早いほうが良いと思う。

 いくら何でも、近々王宮に挨拶にも行かねばならないだろうし、

 化身の仕事も少しずつこなさねばいけないだろう。」



「わかりました。私はどのような用意を?」

「昼から騎士用のメニューを食べて、夜には禊をせねばならない。

 俺もつきあおう。リオのメニューも化身用に変えさせよう。」


「リオには、夜に私から話すことになるのですね。」

「ああ。リオが受け入れれば、明朝にはデュアスは騎士になる。

 俺から最後の確認だ。本当に化身様の騎士になれるか?

 今までの全てを捨て去ることができるのか?」



デュアスはギルスをまっすぐに見て言った。

「俺には、もう家族もいない。

 守りたいと心から思うのはリオだけだ。」

「わかった。用意する。」

ギルスはそう言うと部屋から出て行った。






・・・王宮・・・



「影が1人辞めるとはどういうことですか?」

きらびやかな服を着た皇太子が父である国王に詰め寄る。


「影が1人くらい辞めたところで何も困ることはないだろう?

 むしろ、お前は影が多すぎる。

 私の影は1人だけだぞ。」

父の国王は威厳のある態度で言う。



「まさか・・とは思うが、影を使ってお前が遊んでいたということはないだろうな?」

「そ・・・そんなことはありません。」

皇太子はそう言うと、慌てたように踵を返した。



「よろしいのですか?」近くにいた側近がそう言った。

「ああ。そろそろ皇太子にも一人前になってもらわなければ。

 あの影を失うのは我々の損失ではあるが、

 影はやはり影。それに・・・。」



「世界樹の化身の騎士になるのなら、我々は祝うべきでしょうね。」

その男がそう口を挟む。

「ああ。そういうことだ。ところで、アルス。

 1つ頼みたいことがあるのだが。」



このアルスという側近は国王の乳兄弟であるので、国王は誰よりも信頼している。

「なんでしょう?陛下?」

国王は、声を落としてある頼みごとをした。



アルスはその話に驚いたようだったが、

「すぐ調査に取り掛かります。」と頷くと国王の執務室から退出した。

国王は窓の向こうの神殿の方をちらっと見て小さな溜息をつくと

執務をするため、机に向かった。




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