ルーレンの夜明け

       第24話 早朝の出会い

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次の日の早朝、理緒は気持ちよく目を覚ました。

早朝と言ってもまだ、外は薄暗く神殿の中も静かだ。


「そういえば、この神殿の中は好きに歩いても大丈夫とギルスが言ってたっけ。

 少し歩いてみようかな。」

理緒は、できるだけシンプルな服を着るとそっと廊下に出て歩きはじめた。


この神殿はとても大きくて長い廊下を歩いていくと、小さな庭園に出た。



その庭園には、薔薇のような花が何個も咲いていた。

その片隅に紺色のフードを被った男の姿があった。

男は、黄色い花をじっと見ているようだった。



理緒は、思い切って「おはようございます。」と声を掛けると、

男は驚いたように振り返った。

「あなたは・・・。」男は理緒の黒い髪を見てあわててフードを下ろした。



すると、その下から短く切られた銀の髪と紫色の目が現れた。

目尻の皺が理緒の父くらいの年齢を物語っている。



・・・銀色の髪と紫の目は王族の纏う色・・・

理緒の頭をマーシェの言葉がよぎり、「ひょっとして・・・王?」と言葉が出ると

王は理緒に向かって丁寧にお辞儀をして言った。


「いかにも。化身様。私はこの国の王。デアス・リィ・リタニアです。」

「私は、リオンです。王様。私は朝の散歩に来ただけです。

 あなたもそうですよね?だから、今は王でも化身でもなく、

 ただ、散歩で知り合った者として、そこのベンチに掛けて

 お話をしたいです。」



理緒は、そう言うと王は穏やかに微笑み庭園の片隅に置かれたベンチに腰掛けた。

「あの花に何か思い入れがあるのですか?」

理緒が聞くと王は頷いて言った。


「私は、王族にありがちな政略結婚で正妃と結婚致しました。

 正妃との関係は愛情が無く、冷えたものでした。

 王になって、私の心の慰めになるのはそこの扉から王城から抜け出し、

 この時間にこの庭園で1人の時間を楽しむことでした。

 そして、この庭園は、いつもこのように綺麗に季節の花が咲いています。

 私は神官にこの庭園は王都の有志が世界樹の化身様の為に

 この庭園の世話をしていることを知りました。


 そこで、この黄色い花の枝に「いつも美しく咲かせてくれてありがとう。」と手紙を書きました。

 すると返事が返ってきて、この黄色い花を世話していたのはその当時大臣をしていた男の娘でした。

 いつしか私はその娘と文通するようになりました。

 そうしているうちに、私はその娘とどうしても会いたくなり、大臣の家にお忍びで会いに行き、

 恋に落ちました。初めての恋です。私はその娘を妾妃にしてずっと側に置こうと思い、

 娘はその願いを受け入れてくれました。


 しかし、迎え入れる用意をした矢先、

 突然その大臣には使い込みが発覚し大臣は娘と逃亡いたしました。

 それは犯罪なので、もう私の力が及ぶところでは無くなりました。


 そして、その2年後、娘は憲兵隊に捕まり抵抗した為殺されたそうです。

 そしてその大臣の男は逃亡したとのことです。


 でも、その娘に何の罪があったでしょうか?

 抵抗したと言って殺される必要があったのでしょうか?

 私は何と無力だったのでしょう。

 この黄色い花は私自身に対する戒めだと思っているのです。」

王はそう言って悲しそうに微笑んだ。



理緒にはそれに返す言葉が何も言えなかった。

でも、1つだけその話で気になったことがあった。

「王様。その大臣が使い込みをしたと言うのは間違いが無いのですか?」

「ああ。確かな証拠もあります。」


「その証拠を王様は検証したのですか?」

「検証?どういう意味なのですか?」王は驚いたように言った。

「つまり、本当にその大臣は使い込みをしていたのか?

 調査するのですよ。その大臣は元々浪費家だったのですか?

 娘を置いて、逃げ出すような人間なのですか?」

「いや。忠臣だと言っても良かった人間です。

 それに若い頃から武道にも通じていて、そんな不正をするような

 人間では無かった。だから衝撃は大きかった。」


「私は、この国の仕組みにはそれほど詳しくないですが

 もし、その大臣が失脚したことにより他の者の権力が

 強くなったりしているのでしたら、内密に調査なさった方が

 良いと思います。王が愛した人なのですから、その人を信じてほしい。

 私はそう思います。」

理緒がそう言うと、王は微笑んで言った。


「なるほど。少しだけ進む道が見えたように思います。

 ありがとうございます。化身様。」

「化身ではなく、リオンと呼んでください。

 よろしかったら、これからもこの時間にここに来てよろしいですか。

 それに私はこの国のことを知らない。

 あなたの愛している国のことを教えてはもらえませんか?」

理緒が言うと王は頷いて言った。



「それでは、私のことをデアと呼んでください。リオン。

 また、お話をしましょう。会えて嬉しかった。」

王はそう言うと、朝靄の中、庭園の隅に作られた小さな扉から塀の向こう側に消えた。



王の話だと、その扉を超えると王城の裏庭に通じるそうだ。



「リオ・・・。リオ・・・。」



その時、理緒を探しているデュアスの声がかすかに聞こえた。

理緒はその声の方へ走っていった。

何だか、このこじんまりした庭はデアとの秘密の場所にしたかったからだ。




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