ルーレンの夜明け

       第22話 父の教え

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「お疲れ様でした。」

バルコニーから、主神殿の一室に案内された理緒は

待っていたマーシェにお茶をいれてもらいそっと溜息をもらした。



バルコニーではギルスの声が頭に響き、笑顔で群衆に手を振った理緒ではあったが、

バルコニーから神殿に戻ると精神的な疲れを感じていた。

その様子を見たギルスは、すぐに部屋を整えさせ、主神殿の一角にある

世界樹の化身の為の部屋でようやく一息ついたのであった。



主神殿で生活を許されるのは、世界樹の化身である理緒とその騎士、デュアスと

神官ギルスだけであるのでここに来て初めて気を抜くことができたのであった。

理緒は、お茶を飲みながら考えていた。



どこかで、自分は世界樹の化身というものをひとごとのように考えていた。

しかし、あのバルコニーの上で自分に向って

たくさんの人が自分に向って頭を垂れている姿を見て

世界樹の化身という自分の重要さがわかった気がした。



同時にその群衆の気持ちに圧倒される自分がいた。

「お疲れなら、隣の寝室で休まれた方がよろしいですよ。」

マーシェが心配そうに言った。



「ああ、俺達はこれからずっとそばにいる運命にあるから

 あまり気を使わないほうが良いぞ。」

「そうだぞ。疲れたなら休むことだ。」

ギルスとデュアスも口を揃えて言った。



「疲れていると言っても体が疲れているわけでないんだよ。

 ちょっと気分転換して良い?変な奴と思わないで欲しいな。」

理緒は皆が頷くと、近くの床で腕立て伏せを黙々とはじめた。



「凄いもんだな。」ギルスが腕立て伏せの手を親指だけに変え、

片手ずつやっている理緒を見て呟いた。

腕立て伏せが終わるとストレッチをする。



これは、理緒の朝の日課なのでマーシェにとっては見慣れた光景なので

隣の寝室に乾いた布と着替えの服を取りに行った。

理緒は、体を動かしながら気持ちを整理していた。



理緒にとって、気持ちで圧倒されたことは今までで初めてであった。

とにかく、圧倒されて許されるならあのバルコニーの上から逃げたいくらいだった。



・・父さん・・・。・・・



理緒は、ここで初めてむしょうに自分の育ての父、義哉に会いたくなった。

会ってどうしたら良いか、相談したくなった。



父なら何て言うだろう。

父は決して自分から進んで物事を教える親で無かった。



「理緒。困難にぶちあたっても君は打ち砕く力をもっているはずだ。

 もし自分で打ち砕けなかったら、自分で調べるなり、

 通じている人に教えを請いて、解決策を考えれば良い。

 知らないということは恥ずかしい事ではない。

 知らないとわかった時に放置したり逃げたりすることが恥かしいことなんだ。」



父は、理緒が困ったときにそう言って一緒に解決策を考えてくれたものだった。



・・・ああ、結局俺は知らない事が怖かったんだ。

なら、道は開けるよね。父さん。・・・



そこに気がついた理緒は何だか目が覚めたような気がした。





自分がたっぷり汗をかいているのに気がつくと理緒はおもむろに

上着を脱いで布で体を拭こうと周りを見渡した。


すると、デュアスとギルスがあわてて言った。



「「着替えは寝室でしろ。」」

「男同士だし、こだわることないでしょ?」

理緒はそう言ったが、2人が怖い顔をしたので

しぶしぶ着替えをする為に寝室に入っていった。


「見たか?」ギルスは苦虫をつぶしたような顔をして言うと、

デュアスは「ああ。」と疲れたように言った。




黒い目に黒い髪だけでも魅力的なのだが、

華奢だと思っていた体は鍛え抜かれて無駄な部分が無く、

しなやかで美しかった。



顔や腕は日に焼かれて褐色だったが

体は白くてすべすべで、子供のような体では無かった。

「あの体はやばいだろう?」ギルスが言うとデュアスも

力無く頷いた。




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