ルーレンの夜明け

       第21話 存在の大きさ

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「ギルス、髭を剃ると若くなるね。」理緒が驚いたように言うと


ギルスは笑いながら言った。

「だから、俺はおじさんじゃないって。」

ギルスの顔を見て、マーシェは背筋をピキンと伸ばして神官の礼を取って言った。



「ギルシスト大神官様。世界樹のおめぐみを。」

「マーシェ・ホスキン。世界樹のおめぐみを。

 化身様のお世話御苦労。」ギルスがそう言うとマーシェは尚更緊張した面持ちで

「もったいないお言葉です。」と述べた。



「大神官?」理緒がそう言うとギルスがにっこり笑って言った。

「そう。俺。」

「うそだろ〜〜〜!!」理緒の驚いた声が馬車中に響いた。





落ち着いた理緒が馬車から出ると、ギルスは空を見上げ、デュアスに声を掛けた。

「デュアス。この前のような事態になりたくなければ、リオンを抱えて主神殿まで

 走ってくれ。」

理緒は咄嗟になんのことかわからずにきょとんとした顔をすると、

マイラから飛び降りたデュアスが理緒を抱えあげて走り出した。



「デュ・・・デュアス。お姫様だっこは・・・。」

「黙っていないと舌を噛むぞ。」デュアスはそう言いながら

駆け出す。その少し前をギルスが駆けてデュアスを案内する。

すると、空から黒い闇が影となってデュアスの後を追いかけて来た。



ギルスとデュアスは足を速め、大きな建物に入るとギルスが急いで扉を閉めた。

「俺だって、走れたのに。」


理緒が口を尖らせて言うとギルスが呼吸を整えながら言った。

「リオンの体力はあるかもしれないが、闇の干渉を受けやすい。

 そうなると、また空間に道をつけなくてはいけなくなる。

 だから、闇が追って来る時は心を落ち着かせることに集中してほしい。」



「わかった。あの闇は何?」

「闇の話はまた後でしよう。そろそろ、神官達も来るだろう。」

その時、理緒達が入ってきた扉と違う扉が開いて、

数人の神官が入ってきた。



神官のうちの1人が責める口調でギルスに言う。

「なぜ、この聖なる神殿に神官ではない騎士を入れたのです?」

ギルスは何でもない口調で言った。

「ああ。この男は化身様の騎士だ。

 まだ正式ではないがきちんと私の立会いの上誓願はすませている。

 ちなみに私も化身様の神官の誓願を終えている。」

すると神官達は、驚いたようにデュアスを見つめた。



年配の神官が理緒の前に進み出て言った。

「世界樹の化身様、おかえりなさいませ。」

それに合わせてギルスも含めた神官達が礼をして言った。

「おかえりなさいませ。」

理緒は困った顔をしたが、

ギルスが半分顔をあげ、理緒と目が合うと

理緒の頭の中でギルスの声が響いた。



「ただいま。私の家族達。と言うんだ。」

あわてて理緒は「ただいま。私の家族達。」と言うと

神官達は嬉しそうに顔を綻ばせた。



そのまま、理緒は神殿の中の会議室のようなところに連れて行かれ

大神官達の名を紹介された。

どうやら、この国の神殿は数人の大神官によって管理、運営されているらしい。

大神官にもそれぞれの部門があるらしく、

神殿を管理する大神官、神官を教育する大神官・神殿の祭事を一手に引き受ける大神官

参拝に来る民の為の大神官・王族、貴族の参拝やこちらから祈願に参る大神官、

国中を歩き民に教えを説く大神官があり、

ギルスは国中を歩く大神官で、神殿に最もいない大神官だそうだ。



紹介が終わると、長老のような長いひげを生やした神官が

「お疲れのようですが、どうか神殿の中庭にいらしてください。

 国中の神官達が化身様が現れた期待を胸にもち、この神殿に参っております。

 どうか、その尊顔をお見せください。」

理緒は頷くと神官達に案内されて中庭に案内された。



ちょうど主神殿の出口が3階くらいの高さで

バルコニーから中庭を見おろすようにできている。

理緒の後ろにはデュアスとギルスがぴったりとついてきた。



バルコニーに出ると、ちょうど、1階半くらいの高さのところに

神官であろう人たちが歌を歌って祈っていた。

そして、それから1段低い広場のような場所にはたくさんの者が同じように祈っていた。

とても広い場所なので、人の端は米粒のように見える。



理緒の前に並んだ大神官が二手に別れて道を開けると

バルコニーのせり出た部分に階段があった。



デュアスとギルスがまずその階段をあがって、

デュアスは右の部分で騎士らしく跪いて手を差し出した。



ギルスは左の部分に跪き手を胸の前に組み深々と頭を下げた。

見ると、その下のバルコニーで先ほどの大神官達も深々と理緒に頭を下げている。

理緒は戸惑ったようにデュアスとギルスをみたが、

深呼吸をしてデュアスの手を取り階段の一番高い部分に立った。



多くの人々が驚いたように膝を折りなおして理緒に深々と頭を下げる。

理緒はその光景に押されてしまい、足がプルプル震えた。





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