ルーレンの夜明け

       第18話 力の暴走

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夕方になると先ほどの案内の男が来て、

理緒とデュアスを夕食の間に案内してくれた。

そこは、中庭に椅子やテーブルを出したところで、



既に頭と呼ばれていた男やギルスが席についていた。

理緒とデュアスが席に着くとギルスが立ちあがって言った。

「今日は、迷われてここに来た者がいる。

 普段我々は世界樹に祈りを捧げることはないが

 2人の旅人の旅が無事終わるように祈ろうと思う。」



すると、数人の男がギルスに言った。

「世界樹は俺達に何もしてくれない。」

「祈ったって無駄だ。世界樹もこの国の王も我々を見捨てたではないか。」

「そうだ。俺達はやりたくて山賊になったわけでないんだ。

 世界樹がなんだ!!魂だって世界樹がいないから彷徨っているじゃないか。」

「明日、日の光を拝めるなら俺は世界樹を信じてやるさ。」



「うるさい。静まれ。」

頭がそう怒鳴りながら立ちあがって言った。

「こんな子供の前で見苦しいぞ。ギルスは、この2人の旅人のために

 祈ろうと言うんだ。てめえの為でないならさっさと祈りやがれ。」



そう言うと頭はドスンと椅子に座り、手を組んだ。

その周りの男達も静かに手を組む。

ギルスが祈りの言葉を唱え始めた。



「世界樹様、この2人の旅人が迷わずに王都につくことができますように。

 この国に光を与えください。」

そう言うと、独特の節回しで歌を歌いはじめた。



それは世界樹にルーレンを救ってほしいという内容の歌で

そこにいる男たちも一緒に歌いはじめた。



・・・助けてくれ・・・・




・・・このルーレンに光を・・・




皆の本当の願いが理緒の耳に響いた。





理緒の目からぽろぽろと涙が零れる。

「リオン?」

デュアスは、理緒の方を見て戸惑ったように声をかけた。



急に理緒の体が金色の光に包まれる。

理緒は戸惑ったように自分自身を抱きしめた。



その時、空から闇色の影が理緒の方に伸びてきた。

デュアスがすかさず理緒をぎゅっと抱きしめるとその影はそこで止まる。

男達は歌をやめて驚いたように理緒とデュアスを見た。

デュアスの体から金色の光が洩れる。



ギルスが驚いたようにデュアスの側に駆け寄ってきた。

「神官、どうするとこの光がおさまる?」

デュアスは尚も光を発し続ける理緒を抱きしめながら大声で聞いた。

「この光は私も知らない光、この坊主は・・・?」

ギルスがそう言うのと同時に光が強烈にもれ始め、デュアスも

元の銀髪の姿に代わっていく。




「リオンは化身だ。おまえは世界樹の専門だろ?なんとかしろ。」

デュアスがそう言うとはっと何かを思いついたようにギルスは

マイラの檻の側に行くと大きく檻の戸を開けた。




それと同時にマイラが飛び出てきて理緒の前までせまった闇の影を食べはじめた。

それと同時に理緒の発する金色の光に包まれて黒っぽいマイラが

美しいコバルトブルーとエメラルドグリーンに変わる。



「騎士様、化身様に声を掛けてくれ。

 心を静まれるよう。」ギルスにそう言われ、

デュアスは光を発し続けぐったりしている理緒に

「リオン。リオン。」デュアスは理緒の頬をピシャピシャ

叩きながら言った。




闇の影を食べ終えたマイラ達の口から透明な卵のようなものが

何個も現れ、その卵は理緒のそばに寄ると理緒の体の中に消えていく。

金色に輝いたマイラ達はそのまま翼を広げて

空に飛びあがり、八方に分かれて飛んで行った。



マイラと理緒を結ぶ金色の光がマイラの向かった方向を指し示している。

ギルスは男達にテーブルの上を片付けるように指示すると、



自分の部屋へ行って小さな小瓶を持ってきてデュアスに言った。

「化身様をこの上に。」

デュアスは、理緒をテーブルに横たえるとギルスはその小さな瓶をデュアスに渡した。

「これは・・?」

「あなたはまだ、化身様に仕えるという儀式をしていないだろう?

 だから、あなたの声が聞こえない。

 本来、騎士は化身様のそばにいつでもいける存在。

 それは例え、肉体を離れ魂だけになってもということだ。

 この坊主は今、力が暴走している状態だ。

 なので、もし覚悟があるなら、この聖水を口に含み

 化身様に水を飲ませるのだ。」

「覚悟?」デュアスはかすれた声で言った。

「ええ。あなたの全てを化身様に。あなたの過去や家族を捨て、

 これからは化身様と共に生きるという覚悟だ。

 生半可な覚悟はしないほうが良い。」

「今、騎士にならないなら?」

「俺も覚悟を決めてこの坊主の忠実な僕になることにする。

 世界樹の化身の僕である神官はその魔力で魂の道を作ることができると

 言う。俺は覚悟を決めた。仮でも、誓願する。

 今ここで、リオンを消滅させるわけにいかない。」



ギルスはそう言って小刀で自分の指を切ってそれを

横たわっている理緒に掲げて言った。

「私はあなたの忠実な僕となることを誓おう。

 あなたは私の絶対。私の血はあなたの血。

 私の肉はあなたの肉。

 私は私をあなたへと捧げましょう。」

そう言うとギルスは自分の血を理緒の手のひらにぽたぽた落とすと

真っ赤な血は淡い光となり理緒の体に消えた。



そこにいた者は皆固まったようにその様子を見ていた。

デュアスは目を閉じ息を深く吸い込むと小瓶の蓋を開け

横たわっている理緒の上に屈み、その唇に唇を合わせると

ゆっくりと聖水を飲ませた。




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