ルーレンの夜明け

       第13話 冴えない男

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「隊長・・・鬼だ・・・。」

何人もの兵士が息を絶え絶えに言った。



「皆さーん、休憩ですよぉーー。」

頭に布を巻いた理緒がマーシェと一緒に

果実の入った籠を持ってくる。


兵士にとって、理緒ことリオンはとても気がきいて

いつもちょうど良いタイミングでマーシェと現れて

果物や冷たい水を置いてくれる。

森に生えている野草や木の実を使った理緒が作る

食事も兵士達の楽しみのひとつになっている。

「リオン。ありがとう。」

兵士は口々にそう言って、リオンから果物を受け取り

座って一息つく。



理緒は、兵士達と少し離れた所に1人の男が座っているのを見た。

その男は茶色の髪をしていて眼鏡をかけていて暗そうに見える。

理緒は、その男に近づいていって果物を差し出した。



男は驚いたように果物をみて、小さな声で「あああ・・りが・・・と。」

と言うとその果物を食べ始めた。

理緒が他の兵士のところに戻ると他の兵士達は口々に暗いだとか

うっとおしいとその男の悪口を言い始めた。



その時、隊長がテントから出てきて言った。

「おらっ。鍛錬を始めるぞ。」


男達はブーブー言いながら立ち上がって鍛錬する為に近くの広場の方へ行った。

理緒はマーシェと一緒に広場の外から

鍛錬の様子を眺めた。

「少しはましになったけど・・・さすがに実践向きじゃないな。

あれ?待てよ・・・・?ふーーん。」

理緒はそう呟いて暗そうな男をまっすぐな目で見つめていた。

マーシェはそんな理緒を不思議そうに見ていた。



理緒は化身だと明かした後、隊長と剣の勝負をして簡単に隊長に勝った。

しかし、その勝負は理緒の意向で極秘で行ったので

兵士に理緒の正体が知れることは無かった。

理緒は、隊長に自分はマーシェと雑用をすると言い、

過激な訓練メニューを隊長に託した。

そして、その訓練の様子をこのように遠目でみて次のメニューを考えるらしい。




「マーシェ。あの男はどんな人かな?」

理緒は、暗そうな男を指差して言った。

マーシェは、その男の方を見て言う。

「あの方、ケヴィン様は、この隊に配属されてまだ新しいです。

 隊長が言われるには、強さは可も無く不可もなくというところでしょうか?」



「マーシェはどう思うのかな?」

「私でございますか?」きょとんとしたようにマーシェは理緒に言った。

「ああ。マーシェ自身はあの男をどう思う。」

「不思議な方だと思います。それに心が強い方かと・・。

 ケヴィン様は、大きな怪我をされることはありません。

 それに私に相談をすることもありません。

 いつもあのままの方です。」

マーシェは神官であり、その仕事は雑用だけではなく、

悩みを聞いたり簡単な治療をしたり、

日々の祈りの説教をしたりと兵士達を

メンタル面で支えることだ。

だから、他の者よりも洞察力があるように理緒は思った。

「やっぱり・・・。」

理緒はそう呟きながら再び訓練の方に目を向けた。





夕方になり、それぞれの兵士が食事を終え、

隊長に明日の鍛錬のスケジュールを渡すと、

理緒とマーシェは小さなテントに入った。


「リオ様、お疲れ様でした。」

マーシェは、理緒の世話を細々と焼いてくれる。

初めは、自分のことは自分でできると言っていたのだが、

マーシェに涙目で懇願されると無下にできなくて

体を拭いてもらったり、髪を整えてもらっている。


それが終わると、マーシェは世界樹やルーレンについて

わかりやすく教えてくれ、ハーブティを淹れ

寝袋を整えてくれる。

寝袋に横になり理緒が目を閉じると、

マーシェは夜の祈りを捧げ、自分の寝袋に入って小さな寝息を立てはじめた。

理緒はそっと寝袋から抜け出してマーシェが寝入っているのを確認すると

気配を消して外に出た。



火の番をしている兵士に気づかれないように森に入ると、

理緒は目を閉じて人の気配を探した。

ルーレンに来てから、夜、闇の中でも目が効くようになったし、

人の気配も探しやすくなった。

・・・だんだん人間とかけ離れていくような気がする。・・・

理緒は苦笑しながら

すると、森の少し先の広場の辺りから微かにヒュンヒュンと音が聞こえる。

理緒は小さく頷いて、そのままそちらへ歩き始めた。





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